継

影の継のレビュー・感想・評価

(1956年製作の映画)
5.0
走行する列車から一人の男が転落死する.
男は顔が粉砕されて身元が分からない.
検死を担当した医師は戦時中に経験した未解決の事件を思い出す.
それは偶発的ではなく, 何者かが仕掛けた <罠> だと思われた... 👥

戦中, 戦後, 現在の, 3つの時期に起きた不可解な事件。
回想により浮かび上がる, 背後に潜む同じ名の男の “影” とは... 👥

'56年, ポーランド製モノクロ.
複雑に入り組んだポーランドの政治情勢を巧みに謎解きに反映させた, イエジー・カヴァレロヴィチ監督によるポリティカル推理サスペンス。
古い映画だし通過儀礼で終わるか?とハードル下げ気味で観たんだけれど, 全くの杞憂でした。

3つの時制を泳ぐように🏊‍♂️行き来する物語は,
【現在→回想①→現在→回想②→現在→回想③】と, 一旦現在へ立ち返って繋がる。
回想②で手榴弾爆発を観せた(語らせた)後, 一転して戻った現在で初めて回想者の秘密を明かすプロットのスマートさなんかは, この構造を最大限に生かした鮮やかさ。

政情不安定な社会に蠢(うごめ)く人間を時代毎に3つのレイヤーへ描き込み, 影👥をその交差する部分に配置して円環構造🔗に繋いでみせた物語。
それでいて現在へ回帰せず, 敢えて過去の地点でラストを締め括るモダンさが “これ以上言わなくても分かるだろう” と云わんばかりで何ともクール。
抗争で巻き起こる謀略や裏切りのスリルも緊張感に溢れて, 脚本家が今作で実質デビューした若干28歳だったというのがどうにも信じ難い。


ソ連の衛星国として社会主義リアリズムを強いられていた時代に撮られた作品。
なので体制側が正義, 反体制側を悪に見立てた結末で抗争は締め括られるものの,
悪は影👥と言うくらいで存在が薄く(笑), 正義である体制側も言うほど英雄的でも強くもない。
劇中に共産主義を美化・礼賛する描写も少なくて, 寧ろ印象的に描かれるのが, 独軍の “人狩り”と呼ばれるジープの急襲にパニックに陥る市民達や, 粗末な家屋で貧困に喘ぐ農民, そして仕事をサボり昼間から酒場に入り浸る堕落した労働者の姿であるところが興味深い。


従来の社会主義礼賛一辺倒な作風から逸脱を試みる “ポーランド派” として『灰とダイヤモンド』のワイダ等と共に台頭したカヴァレロヴィチですが,
ソ連の衛星国だったポーランドには依然として厳粛な検閲の壁が存在し, それをクリアしなきゃならなかった彼等は,表現として間接的だったり・言外に含む所の多い・解釈に幅を持たせた手法を用いてこれをかわそうとするんですね。
これが, 結果的に一派の特徴的な作風になったように思うんですが, そう考えると上述の描写↑は,
戦争/政治で犠牲を被るのは体制や勝ち負けがどうであれ市井の人々であって, いずれの時代においてもおよそ社会主義は成功したと言えない…という, カヴァレロヴィチなりの精一杯の「抵抗」だったのかもしれません。
継