むっしゅたいやき

街の天使のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

街の天使(1928年製作の映画)
4.3
夜のゴンドラ、カンツォーネ。
フランク・ボーゼイギ。
モンクトン・ホッフェの戯曲『Lady Cristilinda』を脚色・翻案した物である。
主演にジャネット・ゲイナーとチャールズ・ファレルを迎えており、個人的にド安定トリオの作品である。
非常にシンプル且つロマンティックな作品であるが、今年のクリスマスムービーとして鑑賞した。
街往く人々が愛する人や家族と過ごす中、遂に不惑を越してしまったおじさんが、一人でXmasイブにロマンティック…。
…済まぬ。済まぬとしか言い様が無い。
おじさんでも偶には世俗を忘れてうっとりとしたいのだ、許してくれ。
そしてそっとしておいてくれ。
今夜だけは私も守護天使に祈ろう、「私にも良い出会いが有ります様に。そして世の中の幸せなカップル達が、今直ぐ爆発します様に」、と。

扨、『街の天使』である。
原題は『Street Angel』であり、守護天使と主人公Angela、そしてスラングの売春婦とのダブルミーニングを構成する。
ボーゼイギらしい縦移動の動線を導入したセットを使用した下町劇であり、このセット自体も1930年のアカデミー賞美術賞にノミネートされているが、トリオの他の夢見心地な作品、『第七天国』や『幸運の星』と異なり売春や殺人未遂等、ノワール的要素を取り込んだプロットとなっている。
作中では個人的に、某O.ヘンリー的な“更正を信じて見て見ぬ振りをしてくれる刑事”を期待してしまったが、現実は非情である。

本作は作中舞台をナポリ及びその近郊に採っている。
この為カラビニエリの登場に加え劇伴にはカンツォーネを採用する等、イタリア情緒の演出が為されている。
…肝心のゲイナー自身がアングロサクソン顔なのであるが。

本作のラストでは、ファレルの百面相が見られる。
マッチの灯りに照らされた恐ろしい顔、守護天使の絵画の前の寛恕の表情、そしてゲイナーに向けられる優しく柔らかな表情。
私生活に於いてもファレルはこの年前後にゲイナーへ結婚を申し込んでいるが、その愛情をこの表情に見る事は無粋であろうか。
二人の心情の機微は余人には不明な所ではあるが、少々残念な想いを拭えない、そんな今年のXmasイブである。
むっしゅたいやき

むっしゅたいやき