真鍋新一

ずべ公番長 夢は夜ひらくの真鍋新一のレビュー・感想・評価

ずべ公番長 夢は夜ひらく(1970年製作の映画)
3.9
先に池玲子と杉本美樹のスケバンものをひと通り観ていたので前身的な位置付けの「ズベ公番長」シリーズは観ていなかったのだが、池vs杉本のアナーキーさとは別の魅力にあふれた愛すべき作品だった。

まず第一に大信田礼子が非常に魅力的。不良少女ではあるがとても純情でひたむきな性格で、少年院上がりという屈折を乗り越えた、意外と、と言っては失礼だがけっこう深みのあるキャラクターなんである。あのハスキーな声、「あたい」という一人称、健康的なボディ、不良映画の枠でありながら、真っ当な青春映画的な側面で楽しめるのは彼女の陽性の魅力によるところが大きい。

今作では、イヤな奴に見せかけて真心のある賀川雪江とジャンキーで不安定な五十嵐じゅんの姉妹のストーリー、勤め先のママ・宮園純子と昔の恋人・梅宮辰夫のストーリー、ヒモの左とん平としっかり者の彼女・橘ますみのストーリー、主人公・大信田礼子と少年院時代からのライバル・夏純子のストーリーなど、90分足らずの間にいくつものストーリーが重層的に、中途半端にならずに盛り込まれていて、いろんなことが雑になりやすいこの手の作品にしてはとても珍しい。良しにつけ悪しきにつけ、勢いで突っ走る傾向の強い山口和彦監督の作品のなかではかなりよくできているといえる。

幼なじみの谷隼人と大信田礼子の海辺のドライブシーンは名場面。走行中のオープンカーで運転している谷隼人からシャツを奪って着替え、空に向かって思い切り身体を伸ばす大信田礼子が1970年の日本において、「イージー・ライダー」的な自由な若者像を映画のなかでしっかり体現していたことには感動さえ覚えた。その直後のある場面を含め、不良だ、エロだ、暴力だ、というだけで眉をひそめられ、存在自体が蔑まされている気さえする東映作品だけど、本質はそこじゃない、ということがハッキリとわかった。

金子信雄のスケベ組長の役は、山守組長を別格にすればベスト3(ワースト3?)に入る外道ぶり。シンプルに最低。そしていまや中村雅俊の妻というより、中村里砂の母(生き写し)と言ったほうがいい五十嵐じゅんの演技には泣かされてしまった。その後の松竹の青春映画のイメージが強い彼女が新宿!アングラ!なムードのヤバい店でラリっていたのはなかなかにショックである。

タイトル曲はBGMだけで、ゲストの藤圭子は「命預けます」しか歌わないのは歌謡映画としてどうなんだ?という気もするが、もはやそれは些細なことです。
真鍋新一

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