真鍋新一

ARGYLLE/アーガイルの真鍋新一のレビュー・感想・評価

ARGYLLE/アーガイル(2024年製作の映画)
3.5
バカ映画とスパイの相性はやはり良い。
『キングスマン』の1作目だけ観て、ちょっと疲れてしまってずっと観ていなかったのだが、ビートルズの新曲も劇中で流れるというので観に行ってきた。

映画館へ行くたびに観ていた予告編のせいでミスリードされてしまった人もいると思うので先に言っておくと、デヴィッド・ボウイの「Let's Dance」は本編でかからない。デュア・リパは歌わない。あと、いかにも主演風にポスターに飾られているヘンリー・カヴィルはあくまでも主人公の書いた小説のキャラクターであって、実在の人間ではない。彼がメインだと思って観に来た人はダマされたと怒るかもしれない。

テンポよく、アクションよく、ゴキゲンな映画ではあると思うが、展開が早すぎてついていけなくなるところがあり、逆に説明が丁寧すぎてしつこく感じるところもあった。寄る年波…。

とはいえいつもながら、人間の本能とか快楽とか、そういうところにやたらと訴えてくる暴力描写。明らかに凄惨な殺人が起こっているにも関わらず異常にポップ。最初の『キングスマン』のときはちょっとまだグロみがあった描写はずいぶんと洗練され、観客の不快感を抑えるような気配りがあったように思う。生々しくならずに大量殺人をギャグにするためのバランスは、とにかくシチュエーションをバカバカしくすることで実現していた。

挿入楽曲も最高。ボウイがかからなかったのは残念だけど、代わりにバリー・ホワイトとシルヴェスター。『キングスマン』のKC&ザ・サンシャイン・バンドのように、基本アゲアゲ。ディスコ・サウンドでバイブスが上がる。

そんなわけで楽しい映画ではあったけど、では実際スパイどもがドンパチすることで、現実世界にはどういう影響があったんですか?という視点が意図的に排除されているので(そんなことまでやってたら1本の映画に収まらなくなる)、映像が派手でロケーションも多彩な割には話のスケールがやたらと小さく感じるというのがちょっとスパイアクションとしては問題だと思った。

追記:
「アイススケートが得意」という設定のある主人公が、オリンピックのフィギュアスケーターがよくやるあの異常にポジティブな笑顔を繰り出すシーンで爆笑してしまった。
真鍋新一

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