毎朝、車で家を出るときちょうど小学生たちの登校の時間と重なる。
いつも以上に安全運転で歩道をいく子供たちに注意を払って運転する…
そんな中にいつも見かける印象的なふたりの子供がいる。小学3~4年生くらい…男の子と女の子がふたり、いつもしっかり手を繋いで楽しそうに話ながら登校している。
昭和の残党から言わせてもらうとそれくらいの年頃って異性を意識しはじめて男女が一緒に登校したり遊んだりするなんて考えられないって世代…
双子かな?いやいや今の時代…ちゃんとお付き合いしてる恋人同士かもしれない…
なんにしてもふたりはいつも楽しそうで…おれは毎朝…微笑ましく彼らを眺めていたのだ。
ある天気のよい朝…おれは自販機の脇に車を停めて朝の缶コーヒーを飲んでいた。
すると…あのふたりが今日は手を繋がず何やら妙な雰囲気で通りかかった。
「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」
スウェーデン映画…
監督のラッセ・ハルストレムはこの映画の後ハリウッドに招かれて「ギルバート・グレイプ」や「サイダーハウス・ルール」などの傑作を撮ることになる。
最近の「僕のワンダフル・ライフ」でも泣かされました。
このタイトルの「ドッグ」についてはライカ犬の話が出てくる。
スプートニク2号で世界ではじめて地球を周回した犬として歴史に名を残したライカ…
でもライカの宇宙旅行は片道切符…最初からライカの帰還は計画されてなかった。
宇宙開発のために犠牲となった哀れな犬…
子供の時…この話を聞いておれもショックを受けたのを覚えている。
主人公の少年…イングマルはどんなに辛い目にあおうとこのライカ犬よりマシだと考える…
子供というのは未完成な存在である。
そんな子供時代に経験する感動や恐怖や悲しみや安らぎは人生最大のものに違いない…誰もがそれを経験してるはずなのに大人になると忘れてしまう…
そんな子供時代をちょっぴり思い出すような映画…
北欧は性に対しておおらかなイメージがある。
子供たちの性の目覚め…
ボクシングの強い女子は胸が膨らみ始めると…男の子たちと遊べなくなるのが嫌で布を巻いてそれを隠そうとする…
その子に恋をするイングマル…
なんて切なくていとおしい映画なんだろう…
自販機の横でコーヒーを飲んでるおれの前で少年は情けない声を出した…
「ユミちゃん…もう許しておくれよ~ぼくが悪かったです」
どうやらケンカでもしてるらしい。
突然先を歩いていたユミちゃんがクルっと振り向くと両手を腰に当てて顔をやや上に向けて少年に言った。
「どうして男っていつもいつもそうなの?!先生が言ってたでしょ?人間は失敗してもそれで学んで成長するもんだって!」
おれは缶コーヒーを口に当てたまま動きが止まってた…
ランドセルがなかったら…ジェシカ・チャステインだな…まるで…
「それをあんたは何回も何回も懲りずに…もう…ちゃんと学習してよ」
「ごめんよ~ユミちゃーん~ぼく頑張るからさ~」
そんな情けない少年を見てたユミ・チャステインは「もうしょうがないなー」って感じでふっと笑った…
「ごめんね~」
少年はおそるおそる手を差し出した…
ユミ・チャステインはやれやれって感じでその手を取ると…いつものようにふたりで手を繋いで楽しそうに歩き出した。
おれはまるで自分がユミ・チャステインに怒られたかのような気分で背筋を伸ばすと…空き缶をゴミ箱に放り込み、車に乗り込んで仕事に向かった…
「頑張れ…少年!可哀想なライカに比べれは君はとてつもなく幸せだ…」