むっしゅたいやき

汽車はふたたび故郷へのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

汽車はふたたび故郷へ(2010年製作の映画)
3.0
己の進む道。
オタール・イオセリアーニ。
原題は『Chantrapas(ならず者)』。
-邦題には少々怒りすら覚える。

イオセリアーニの半自叙伝的作品である。
個人的に自伝的作品や、故人の伝記的作品は好まない。
それはその行った行為の正当化や過度な賛美が見られる故であり、本作のイオセリアーニに有ってもその弊からは逃れ得ない。

この頃からは非常にクリアな映像となっており、彼の作品に通底してきたグレインフィルタに拠る「記憶の中の様な情感」は失われている。
作中で彼が撮る、ジョージア時代のシークエンスには、フィルタを通した方が宜しかったよではないか、と思われる。

物語はよく在る少年少女三人の成長物語であり、目新しさは無い。
また既存の権威との相克の中で見せる弱者への暴言は大変不愉快な物であり、「芸術家だから」「頑固だから」で済まされる訳もない。
当時旧ソビエト連邦の一共和国であったジョージアの頭の固い検閲委員会と、そこに在籍する「理解の有る若い女性委員(幼馴染)」と云う設定も平凡であり、どうも私には、本作はイオセリアーニらしくなく、通習に堕した様に見えてしまう。
後半も異国の地で認められず帰郷する迄を描いているが、全体的に地味且つありふれた展開で、主人公・ニコを作劇の空想世界へと誘うアイコン、人魚のシークエンスと作中作の理解不能な射殺より他、特筆すべき事も無い。

彼の若さ故の情熱と葛藤を注視すべきなのかも知れぬが、上記理由から全く彼に感情を移入させられず残念である。
もっと私が年老いて、彼の言動を「若いな」と温かく見られる様になれば評価も変わるかも知れない。
現状ではこのスコアとする。
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