HicK

魔法にかけられてのHicKのレビュー・感想・評価

魔法にかけられて(2007年製作の映画)
4.6
《最&高。自虐に本気で取り組んだディズニー傑作》

【自虐、パロディー、本物】
ディズニーの自虐的コメディーの潔さ、自らのパロディー演出という所に惹かれる。実写ディズニー作品の中でトップクラスで好き。後にも先にもこんな異質なディズニー作品は無い。へたなお笑い映画よりも笑えて痛快。しかもファンタジー性も保っている。アラン・メンケンによる王道のディズニーソングと本家本元のアニメーションが加わって、パロディーのはずがとんでもない高級エンターテイメント大作になっている。

【イタおもしろい】
「一目見て、真実の愛」は最大の自虐ネタ。今でこそ「アナと雪の女王」の中でも否定されているように「ディズニールネサンス」と呼ばれる時期からはそんな描写から離れているが、クラシック作品というレガシーのテイストを一旦否定する手法はとても大胆で、観客にとってはかゆい所に手が届いたかのような感覚。そんな一目惚れによる真実の愛の否定はイタおもしろい。

【ボケ担当:ジェームズ・M、最高】
エドワード王子演じるジェームズ・マーズデンがとにかく最高!コメディーを担っている事もあるが、アニメと同様の台詞回しが上手い。彼がブレないからこそ、今作が成功していると言ってもいい。1番濃い役所を徹底して演じきれた彼に拍手。「X-MEN」のサイクロップス役でブレイクした彼は役柄もあって「真面目でかたい」イメージがついたが、本来の彼は今作に違い面白い人物。彼のユーモアと柔軟性が今作で活きたと思う。

【ボケ担当:エイミー・A、最高】
エイミー・アダムスは若く見えるが、プリンセスとプリンスが35歳前後なんて異例。でもそれを感じさせず、演技力で圧倒される。「歳よりも実力」とてもいい。いちいちリアクションが面白い。笑えるのは彼女が「無垢さ」をしっかりと演じきれた証拠。揺るがない演技は、笑いと同時に現実世界に送られたジゼルが可愛そうにも思える。

【ツッコミ担当:パトリック・D、最高】
ロバートは終始受け身で、おとぎ話からやってきた濃過ぎるキャラたち相手に唯一の「ツッコミ役」になっているのが面白い。猛獣使い。「That's How You Know」をセントラルパークで歌い始めるジゼルとのってくる民衆に「みんなこの曲知ってるの!?」とツッコむシーンは大爆笑。ちなみにジゼルは人を操る能力も持っているのか!?…。ピップに触ろうとする娘へのセリフも「感染症にかかるから触るな」と現代っぽい(笑)。とにかく振り回される彼が非常に面白くパトリック・デンプシーが好演していた。

ジゼルとロバートの「ボケとツッコミ」、エドワード王子の「ボケ倒し」でキレイなコメディーになっている。日本のお笑いにも近い。

【とてつもなく大好きなシーン】
「Happy Working Song」のシーンは大好きでしょうがない。そりゃ都会の真ん中で動物呼んだらそうなりますわ(笑)。この自虐ネタは歴史に残る名シーンだろう。よくディズニーがオッケーしたなと思う。呼んだ動物を見たジゼルの「なんかちょっと違う」的なリアクションが絶妙。その後のシュールな画に反して、盛り上がる素敵な音楽と楽しげなジゼルの姿は最高。魔法が切れハトがゴキブリ食べちゃうオチも爆笑。

【ちょっと残念な点も】
個人的にちょっと…と思う所もある。
ジゼルが気絶した時にエドワード王子が「ロバートもキスしてみろ」と言う場面。そのセリフは、薄っすらロバートとジゼルの気持ちに気づいていたナンシーに言ってほしかった。何も知らない王子は好きな女と他の男のキスなんて見たくはないだろう。あと、さすがにジゼルの口から魚が出た時は、いき過ぎたコメディーかなと思った。

【真実の愛】
今作はディズニーが自己否定しているかの様に見えて、現実世界にも「真実の愛はある」と結論。ジゼルとロバートの言葉にならない気持ちを「真実の愛」としている。それは娘のモーガンとジゼルの間に生まれる「母子の愛」も含んでいるのかもしれない。

エドワード王子とナンシー、非のない2人が可愛そうになる展開だが、よく考えれば、こうした理不尽な振られっぷりは現実味もある 笑。ファンタジーを扱う作品としては少し酷な描写だが、唯一の救いは2人の結末。最後の2人の描写は、クラシック作品を否定せず、そういう恋もあるという肯定も含まれていると思う。半ば強引ではあるが…。その強引さこそディズニーアニメってことか?

【総括】
今作は、コメディー、設定、アランの音楽、久しぶりの本気のディズニーアニメーションが素晴らしかった。本物のディズニーが「本気で全力でふざける」という真剣さと柔軟さが光っていた。MYベスト級、かつディズニーの中でも唯一無二の最&高な傑作だと思う。
HicK

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