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ラビット・ホールのan0nym0usのネタバレレビュー・内容・結末

ラビット・ホール(2010年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

Rabbit holeー

不思議の国のアリスが落ちた『ウサギの穴』から転じた言葉。不思議な体験だったり、麻薬による幻覚だったりを意味する比喩的表現。

今作でのそれを意訳するのだとしたら…
『無数の可能性』と読むべきかもしれませんね。

赤土に黒い腐葉土を混ぜる…まるで妻の心理描写にも想える表現から、物語が始まります。

プロットを要約すると…
幼い息子を交通事故で喪失した夫婦の、それぞれの苦悩と再生を描いた物語。今作の題名は加害者の青年が創作したコミックの題名でもあります。

夫婦を取り巻く環境を主軸に、親族、リハビリの会など、人間関係がしっかりと描かれていて、生々しさを感じさせます。

『素晴らしきかな、人生』に近い設定ですが、今作は救いを与える天使は不在…物語を綴るのは、生身の人間だけ。それがとても真摯で、好印象でした。

二度三度って見る度に…見えてなかった軋みを感じる部分が浮き上がってくる。
軋んで、ささくれ立って…傷だらけ。

どうしても何かの拍子に、自分を保とうと刺々しさが顔を出す…それが痛々しい。

車で口論してる場面は…切なかった。

夫、妻、周囲の人々。
それぞれ…思っている事がある。
大事にしていたものがある。

ただ心安らかにいたいだけなのに。
どうしても…できない。
近しい人の優しさにさえ、痛みを感じる。
傷口にはまだ、血が滲んでるから…

奥歯をギュッと噛み締めながら観てた。

ママの話した、ポケットの石…
確かに、そうなのかもしれない。

それぞれの形があって…
共通してるのは、たったひとつ。

失ったものの代わりに、哀しみがある。

時と共に小さくなったとしても…
きっと消えたりはしない。

その哀しみの分だけ…
愛おしかったという証拠。

哀しみを抱えてあげるって事が、精一杯愛するって事にもなるのかな…そんな簡単に言い切れる事じゃないのは解ってるけど。

これからどうするのか…

わからない…
なんとかなる…

何に縋ったところで…結局はそうなんだと思う。それが『人間』ができる、哀しみとの付き合い方。あるがままを受け入れるしか、私たちにはできない。

結論は、とてもシンプル。
だけど、この描き方は正直で納得できる。
この部類の中では、個人的に一番心に響いた作品かもしれない。

哀しみに溢れているし、刺々しい部分もあるんだけど…穏やかに観ていられる。
静かに胸に残る余韻…良作でした。
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