開明獣

ヒロシマモナムール/二十四時間の情事の開明獣のレビュー・感想・評価

5.0
今日、8月6日は広島に原爆が投下された日。

1945年8月6日は、8月9日と並んで日本人がというより、人類が忘れてはならない日だというのは言うまでもない。残念なことに、つい最近でも、「バービー」の無神経な原爆を揶揄したファンアートを公式サイトが面白がって好意的なコメントを出してしまって炎上したり、クリストファー・ノーランの最新作では原爆肯定ととられるような台詞があったり、この日本ですら核武装すべきなどという呆れ果てた暴論を吐くものも増えてきて、一体私達は歴史から学ぶことが出来るのか不安になってくる。

バービーの件に関しては、グレタ・ガーウィクもノア・バームバックも、とんだとばっちりであることは間違いない。が、起こってしまったことは元には戻せない。14万人もの死者を出した惨事を公式サイトが茶化してしまったことは事実であり、それを不快に思って観ないことに決めた人がいたとしてもそれは仕方がない。勿論、観ないで低評価をつけるのは流石にフェアではないが、観る観ないの判断をして、それを表明するのは自由だ。SNSとは、自分の意見を表明する場なのだから、特定の誰かや何かを根拠なく極端に誹謗中傷するのでない限り、発言の自由が担保されなければ、それは言論統制になってしまう。

歴史に"たらねば"はないけれど、それでも「バービー」の公式サイト担当者が本作を観ていれば、あんなことは起こらなかったのに、と悔やんでしまう。どんな理由があるにせよ、多くの人間が亡くなったことを正当化出来ることなどないのだから。

本作は、フランスの女流小説家、故マルグリット・デュラスが脚本を書いたものを(小説化されてないのが残念)、名匠アラン・レネ監督が映像化したもの。原爆投下から14年後の広島で、日仏合作の反戦映画を撮影しにきたフランス人の女優と、家族を原爆で亡くした、政治家兼建築家の日本人の男の邂逅を描いている。

この二人に名前はない。それは何故かは、劇中で解き明かされることになっている。そして、戦争の爪痕は広島のみならず、至る所にあることを女優の過去を通して描きだしている。時に幻想的で、詩情溢れる映像は物悲しく、被曝した街の男と、占領下にあった街の女が、なにか探り合うような形で互いの立ち位置を確認していく。

直接的ではないからこそ、反戦の意図が伝わってくることがある。そんな過去の名画を、世界の指導者たちは観るべきだ。そして、世界に13,000発もあるという核兵器の廃絶を真剣に考えるべきだ。映画には、そういう社会的な効用もあってしかるべしなんだと思う。

今年もまたこの日がやってきた。誰を恨むわけでもなく、ただひたすら鎮魂の心を込めて黙祷したい。
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