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赤い影のninjiroのレビュー・感想・評価

赤い影(1973年製作の映画)
3.8
霧の中、底知れない闇と背筋の凍る恐怖。

砕けるガラス、剥げ落ちたモザイク。
運命と時間が交差するまで、散らばった過去や未来は置き去されたままに。
"Don't look now"。その戒めは何時誰が発して何時何処の誰に向けられるのか。

時間軸の意図的な不安定感、シーン構成のアンバランス。それは主人公達の足元の危うさを私達に知らせるサイン。
意図も知らされず宙吊りにされ身体から引き離され彷徨う魂は、真夜中赤い影と共に静かな霧に包まれたベニスの冷たい石畳を走り、いつの間にか辿り着いた袋小路で遂に絶望と対面する。

何処までも不穏に演出されるベニスの街。
美しきジュリー・クリスティとその肢体。
ドナルド・サザーランドの顔面のド迫力。

挟み込まれる艶かしい夫婦の営み。
その異常なエロスと美しさは一見の価値あり。

冗長さを感じ始める中盤部分を得意の映像美と意味ありげなカットの積み重ねによるムード造りで危うくクリアしていく手腕は、流石のニコラス・ローグ。
なんてことない会話や場面で交わされる人々の眼が、視線が、深い闇や恐怖を演出し、いよいよドラマは混迷を極めていく。

そして終盤の急展開。
子供にとってはトラウマ必至、大人の心にも深い傷跡を残しかねないクライマックス。

これは、衝撃映像だ。


古い映画なので、今やその影響を受けた映画は氾濫しているだろうし、私も今やこの恐怖に匹敵する映像を他に知っている。
しかし改めて見ても、これから起こることを知っていても、やはり震え上がるほど怖い。

本作の公開がベニスの観光収入に影響が無かったかどうか、要らぬ心配までしてしまう。
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