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花様年華のRenのレビュー・感想・評価

花様年華(2000年製作の映画)
3.5
ウォン・カーウァイ作品を初鑑賞。芥川賞作品でも読んでいるのかと思った....。説明的にならず、粛々と進んでいく日常を美しく切り取った、これぞまさに映像作品といった出来だった。楽しめた。

大きな事件は何一つ起こらず、全編を通して人物たちの機微のみをドラマに仕立て上げていた点がまさに純文学のようで興味深かった。そこに耽美的な映像と音楽が乗ることで、でもやはり映画だなと思わせる。チャン(マギー・チャン)のチャイナドレスも、黄色がかったライティングも、燻る煙草の煙もため息が出るほど美しい。

直接的なベッドシーンはおろか肌の露出すら一切無くとも官能は描けるのだなと感心もした。チャウ(トニー・レオン)とチャンが出会ってから心を通わせ密会していく一連の流れが、特別なことはしていないのにとてもエロい。お互いの恋心が次第に絡まっていく、「絡まる」こと自体が人間関係においては官能的なのだという気づき。

俳優陣の演技がトーンを抑える方向で統一されていたのも良かった。大きな声を出したり泣き叫んだりしなくても感情は伝わるし、むしろこのほうが我々の日常会話に近いと思うので。同年のカンヌ女優賞を獲得した『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のビョークが激情型の演技だったため、トニー・レオンがこの演技で男優賞を獲得したのがとても面白い。

二人のどこか生々しいリアルな恋愛模様はこういったディテールの締めの賜物。フレームの外にも誰かの日常があるのだろうと容易に想像を膨らませられるリアルがあった。逆に言えば、日常の中で二人だけがカメラに映される感じが彼らの「浮気・不倫」の本質を突いているよう。
人物に「何を喋らせるか」とか「何をやらせるか」で語るのではなく、日常は日常であるものとしてそれを「どう演出するか」「どう撮るか」で語る映画。しつこいほど流れる『夢二のテーマ』も作品の雰囲気にぴったりで素晴らしい。

実際に観てこの監督の味わいが理解できたので、他の作品も観てみようと思う。 4Kリマスター版の上映がされているウォン・カーウァイ作品だけど、最近なかなか劇場に行けない&近場に上映している劇場が無いので厳しそう....。
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