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ヒミズの8637のネタバレレビュー・内容・結末

ヒミズ(2011年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

やはりすごい映画。人生最大の絶望を、とても軽快に描いている。

この世は馬鹿者ばかりだ。
誰かを一生の友に見立てて人を殺す男、存在を見失ってそのせいで人に当たろうとする男、そんな世界の歯車から外れている人間がこの映画にも出てくる。そんな人達が異常に見えるのは僕だけか。

住田の父母もそんな人間だった。
この映画を観た後家族と話してとても温かみを感じた。子が親に殴られる時の感情は、こんな映画でしか感じられないのだ。
そうしたら、何で産んだんだろうな。セックスばっかりしてたからかな。

そんな"オスとメス"に生まれながらも震災で家を失ってしまった大人たちを救い出した住田。この映画の中にはそのシーンはないが、彼は後に夜野たちから一生の恩恵を受ける程の事をしたのだ。

彼らが後にこの救いようのない映画の“希望”になる。ボートハウスに帰ると違和感を感じるほどに優しく住田を迎える彼らがいる。
しかし住田はうざがってる。確かにそんな人を見ると虚しくなってしまう。

もしこれに似た物語が現実にあったとしたら、希望となってくれる存在はいるだろうか。救いようのない人生のままなのか。

住田は不器用だけど周りの人に守られながら生きてる。
守備体制にあった彼は、父を殺す事で自分を解放できた。
泥にまみれ、絵の具を塗りたくって世間に反抗していくようだが、結局はそれ以上の狂人を側から見て、誰かに守られて家に戻った。

この役は染谷将太にしかできない。若かりし園子温のような雰囲気を出すような、特に絵の具のシーン。あれはアドリブだそうだ。

茶沢は神様みたいな存在。住田を彼自身以上に大切にしていた。事あるごとに涙を流して感情を露わにして、誰とでも楽しくなれる。住田は彼女の希望すらも知らずに借金屋とも立ち会っていた。

この役、二階堂ふみにしかできない。程々に美しさがあり、またでも日常感がある感じ。

幾ら死のうと考えても、夜野たちの優しさに助けられていたようだ。
パーティーを開いたシーン。音は無かったけど、自然と涙が溢れた。

もっと伝えたかった事があったはずだ。今感想を書いてるけど、その時には忘れているような、一生文字に表せないような感動が、もうちょっとあった。

染谷将太の暴走の中に見える繊細さ、二階堂ふみの感情剥き出しの少女、でんでんの危うさ、渡辺哲の寛大な優しさ、西島隆弘のイタさ(この映画の中では)、皆すごい演技でした。

東日本大震災から2ヶ月後に撮影したこの映画。原作から設定を変えながらも、被災者へ希望を届けようという園子温監督の映画に向き合う気持ちを感じた。

冒頭感じた軽快さというのは、父を殺すシーン、そして人物の映るラストカットだけは長回しだった事。物語を決定づけるような大事なシーン2つ。特に躍動したシーンだった。
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