ずどこんちょ

ハリーとトントのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ハリーとトント(1974年製作の映画)
3.5
74年の癒し系ロードムービー。
妻に先立たれ、ニューヨークに愛猫トントと一緒に暮らしていたハリーですが、区画整理のため長年住み慣れていたマンションを強制退出させられます。
昔と違ってゴチャゴチャして、活気を失ったNY。とりあえず長男の家に移り住んだハリーでしたが、友人も亡くなり、NYに馴染めなくなったハリーはトントと一緒に終の住処を探す旅に出ます。

特別大きな展開があるわけでもないのですが……なんかとっても良いんですよねぇ。
人間と同じ物を食べたがって、ちょっと放しただけで駆けて行っちゃうトントも可愛いし、そんなトントを愛するために飛行機にもバスにも乗れずに陸路で地道に進むしかなくなったハリーも愛おしい。
長女のいるシカゴ、次男のいるロスを目指して旅を続けるハリーは、道すがら様々な人々と出会います。
イマドキな考え方で家出した女の子や、初恋の女性、健康食品を売る胡散臭いセールスマンに、留置所で出会ったインディアン。
人と人との素敵な出会いこそ、ロードムービーの魅力です。

ハリーが出会う人たちが、ことごとく良い人たちで、しかも社交性が高いんですよね。出会ってすぐに会話が弾むし、心が通い合う感じ。
他人に寛容なアメリカのお国柄なのか、それとも経験豊富な高齢者のコミュニケーションスキルなのか。

いや、それだけでなく、ハリーの人柄が一番大きいと思います。
元教師のハリーは知性に溢れていて、他人の価値観を認めます。特に通常ならジェネレーションギャップがあるはずの若い人たちの価値観も、広い器で受け入れます。
家族にすら理解されなかった孫の沈黙行も興味を持って質問。薦められた本を読んでもきっと理解できなかったでしょうが、ハリーは決して否定しません。
そればかりか、終盤では仏教にハマっているらしいので孫の特異な価値観を柔軟に取り入れたのでしょう。

インディアンや家出娘など、どこかで声を出すことを抑圧された人たちの価値観も受け入れるハリー。
だからこそ、皆、ハリーには心を開いて会話が弾むのです。家族たちも遠く旅してきたハリーを歓迎して愛しています。

旅とは、違う文化や違う人種、言語、宗教、その土地の風土と出会う行為です。
そんな時、自分の凝り固まった価値観と比較したり否定する事なく、柔軟に受け入れる考え方があれば、旅はより一層魅力的になると感じました。