回想シーンでご飯3杯いける

秘密と嘘の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

秘密と嘘(1996年製作の映画)
4.0
登場人物は皆、嘘と秘密を抱え、そして悩んでいる。家族や親戚の前だと甘えもあって、それは醜態として姿を現す。特にシングルマザーの主人公シンシアは、いつも咥え煙草で、男関係で人生の回り道を繰り返してきた、悪く言えば尻軽女。10年前の僕なら、彼女に嫌悪感を持って、この作品を途中で投げ出していたと思う。

しかし、カンヌでパルム・ドールを受賞した本作品は人間関係の描き方が絶妙なのだ。国によって家族問題や人間関係の構図は微妙に変わってくるものの、子供を持つような年齢になれば、葛藤の中で生きていくのは当たり前の事。僕自身も大人になり、そんな人間の姿を受け入れられるようになった。そして、葛藤から這い上がろうとする人間の姿に共感を覚えたり、応援する気持ちも生まれてくる。

主人公の弟が経営する写真スタジオに訪れる人達も、皆何らかの闇を持っているように見える。しかし彼らも皆、自分の人生の中で生きている。お客さん1人当たりが映し出される時間は僅かだが、その積み重ねが本作品の世界に、より深みを与えていると思う。

ある時は沈黙、ある時は笑い、そして泣く。そんな人間の当たり前の感情が、俳優達の素晴らしい演技で紡がれている。僕達はシンシアの生き方を受け入れられるのだろうか? いや、それが誰であっても、必死で生きている人間を否定する権利など有していない。ある程度、年齢を重ねている人向けの作品だとは思うが、これもひとつの人生賛歌である。