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日本橋のakrutmのレビュー・感想・評価

日本橋(1956年製作の映画)
3.6
美人芸者ながらも旦那に操を立てて言い寄る男たちを拒む清葉と、清葉が拒んだ男たちを横取りすることで清葉と張り合うお孝という二人の女の生き様を描いた、市川崑監督の文芸ドラマ映画。泉鏡花の同名小説が原作であり、1929年には溝口健二監督によって映画化されている(が、フィルムは現存していない)。

『日本橋』は泉鏡花が書き下ろし小説として上梓したあとにすぐに戯曲化され、新派の代表的な演目となっただけあって(時代劇ということもあろうが)本作でも演劇を意識して映像化されているようにみえる。特にそれが顕著なのは、葛木が一石橋から雛祭りの供え物である栄螺と蛤を放って、その姿を怪しんだ巡査に尋問を受けている最中にお孝に助けられるなど、一石橋での数々のシーン。舞台調の台詞回しとともに、背景の壁をはじめグレーを基調として色彩が統一された室内セットが印象的。市川崑監督にとって初のカラー作品にも関わらず、こういう雰囲気への拘りに、それ以降の横溝正史シリーズの萌芽が見て取れる。逆に、最後のほうに出てくる、そのときのお孝の心情とはまるで正反対の明るい日差しの下で清葉とお千世が会話する(その前に、ガキ大将を演じるには育ち過ぎている川口浩に確信犯的に演じさせたガキ大将にお千世がいじめられる)シーンも、なかなかのものである。

そして、お孝の変わりゆく心情の機微を見事に演じた淡島千景が素晴らしい。最近、BS松竹東急で放映している『思い橋』というTVドラマでの(もう年配の)淡島千景が気に入ったので、彼女の代表作を見てみようと思って選んだのが本作なのだが、彼女の演技を堪能するには適したチョイスであった。

清葉を演じた山本富士子は確かに綺麗だけれど、本作の彼女はそれほど印象に残らなかった。お孝が経営する置屋の抱妓であるお千世を演じた若尾文子は、まだまだ新人に毛が生えた頃である。もう一人印象的だったのは、清葉に言い寄る医者・葛木を演じた品川隆二。個人的には焼津の半次の印象が強いので、若い頃にこんな素朴で生真面目な役柄を演じていたのが新鮮。でも鶴田浩二の代役として起用されたらしい。
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