ふき

007/トゥモロー・ネバー・ダイのふきのレビュー・感想・評価

3.5
ティモシー・ダルトン氏のシリーズから『ゴールデンアイ』までの展開からの揺り戻しで、ボンドの見た目は旧来のイメージに近付き、ぐっと英国紳士感が増している。映画の内容でも、ガジェット感満載のボンドカーの活躍や、当時ヒットしていた映画からのオマージュ、大セット大爆発のクライマックスと、過去シリーズのノリを踏襲している箇所も少なくない。
しかし本作はそんな要素を忘れるくらい、敵役が特徴的だ。ジョナサン・プライス氏演じるエリオット・カーヴァーは完全な非戦闘員であり、それ自体は珍しくないのだが、犯罪組織の頭領でも軍人でもなく「メディア王」という置き方は類を見ない(この「敵役の置き方を工夫する」はピアース・ブロスナン氏のボンドシリーズの特徴とも言える)。
エリオットのモチーフは、本作公開以前からアメリカメディアを支配しているルパート・マードック氏なのだが、マードック氏は実際にイラク戦争を扇動して成功しているのが恐ろしい。エリオットの見た目がスティーブ・ジョブズ氏的なIT長者風なのも、現在のネットや社会情勢を考えると、暗澹たる気持ちになってしまう。

しかし、『未来世紀ブラジル』で情報統制社会に疑問を呈したジョナサン・プライス氏が、のちにマスメディアを牛耳って第三次世界大戦を画策するとは、皮肉よのう。
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