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鬼が来た!のTSのレビュー・感想・評価

鬼が来た!(2000年製作の映画)
3.8
【麻袋から出てくる鬼?】80点
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監督:チアン・ウェン
製作国:中国
ジャンル:戦争
収録時間:140分
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 タイトルのインパクトが凄まじいので以前から気になっていてDVDを購入。残念ながらサブスクでは現在視聴不可です。日中戦争末期における、とある中国の村での日本人兵とその村人達の話であり、前半はややコメディタッチで、ところが後半はかなりシビアな展開で描かれています。全編白黒ですが2000年の映画であるため意図的なものです。この白黒効果はクライマックスで最も発揮するのですが。また若かりし香川照之の熱演も垣間見ることができます。

 夜中のとある家に、「私」と名乗る者が現れて、二つの麻袋を預ける。そこには日本人兵士と通訳師の中国人が入れられていたのだが。。

 日本人にとっては、捕まって捕虜になるくらいなら死んだ方がマシ。死ぬことは美徳という精神が普通に蔓延していて、香川照之演じる花屋はひたすら自分を殺せと声を荒げます。しかし、尋問に対してそう言っているにも関わらず、通訳師のトンは全く違うことを訳し難を逃れようとします。このあたりは面白い。その結果、村人達に好意的にとらえられ生かされていきます。

 最初こそ、村人達に怒り喚いていた花屋でしたが、自分によくしてくれる村人達に少しずつ心を開いていき、いつのまにか仲間とは言えないですが、それに近しい感情を抱くようになっていきます。ところが、花屋が自軍に戻ってから事態が一変します。上司達にタコ殴りされて、何故生きて戻ってきたのかを問いただされます。そしてその後とる上官の行動が恐ろしいです。あの希望から絶望に変わる瞬間、なぜああなってしまうのか本当に虚しく感じてしまうところですが、このあたりがまた白黒だから余計印象が強くなってしまいます。

 終盤、最後の最後に映像がカラーになります。このラストシーンは映画史に残るのではというくらいインパクトが強いものでして、なかなか忘れることができないでしょう。日本人がほとんど死なないので、反日映画なのかな?と思えてしまいますが、そんな単純なものではないと感じます。シビアな事象を扱っているため、案の定中国では当初公開禁止であった模様。しかし、今作では単に日本対中国という図式を示しているだけではなく、過酷な環境の中でも友情が芽生えるということを教えてくれています。何回か言及しましたが、個人個人の恨みはないのです。国と国が戦ってしまう中、大切な人が他国に殺されてしまう。そうなると、いやでもその国の名前を背負っている兵士や村人に怒りの矛先が向いてしまうのでしょう。こういう残酷ながらも虚しい対立は古今東西どこにでもありますが、触れ合えばわかりあえるものもあるのだということを、今作は教えてくれているのだと思います。

 最後に、鬼が来た!というタイトルでして、単純に見れば鬼は花屋のことかな?と思ってしまいますが果たしてどうなのか。日本軍のことかもしれないし、日本全体を指すのかもしれません。冒頭の「私」が誰なのかもわからないのが考察の余地を与えて興味深いと思いました。
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