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(500)日のサマーのslowのネタバレレビュー・内容・結末

(500)日のサマー(2009年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

スコア5にしてしまったのは、サマー効果のせいでしょうか。いいえ、好きな映画だからです。

冒頭、これは男女が出会う物語ではあるけれど恋愛物語ではない、というような前置きがある。では何なのか。これはトムの成長物語なのだろう。と言いつつ、あまりにもサマーを前面に押し出しているし、2人のあれこれを延々と語っていることは確かで、だったらこれは恋愛物語でいいだろうという意見もわかる。それならウディ・アレンや今泉作品みたく次から次へと相手が出て来て、それぞれとの付き合い方を通じてトムの成長を描いた方が、この作品のメッセージは伝わりやすかったのかもしれない。ただ本作は如何にサマーがトムの人生に影響を与えたか、をサマー一本で描くことにこだわった作品だ。序盤で、サマーが信じたものは二つだけ。自分の黒い髪と、それを切り落としても何も感じないこと、というようなことが語られる。額面通りに受け取れば、監督は最初からわたしたちには結末を言い渡していたということになるだろうか。劇中、サマーの本心はほとんど語られていなかったし、ほぼトムの恋愛観の押し付けではあるので、サマーが身勝手、酷いと言われがちな一般論はちょっと可哀想な気もする。終盤で、2パターンの展開が画面の左右で進行されていくシーンがあったけれど、あれがトムの脳内では500日の間、あらゆるシーンで起こっていたのだと思う(見せ方としては面白いけれど、サラッとトムのやばさを描いたシーンとも言える)。2人で映画を観に行った時、ひとり号泣したサマー。何としてでも欲しいものは手に入れる。彼女はそういう人に惹かれるタイプだったのかもしれない。だから、大好きな建築家という夢を生殺しにするようなトムがどこか好きになれずにいたのではないか。そういうもっともな理由をこじ付けることもできる。そして、トムの成長物語と言いながら、サマーの方が先に成長を見せる点も面白い。ここでいう成長とは、相手の意見を聞き入れてみると言った感じ。サマーはトムが事あるごとに持ち出していた偶然をそれっぽく言い換えた運命というものを、信じてみることにしたのだ。その結果、皮肉にもサマーはトム以外の人に運命を感じ、去って行ってしまう。トムはサマーのことを幸せの青い鳥(序盤、中盤までは意図的に青系のコーディネートを多くしていた気がする)と信じて疑わず、幸せを運んで来てくれるのを待ち続けてしまった。しかし、サマーは青い鳥などではなく、ひとりの女性でしかなかったし、自分を見つめ直すことなく相手に幸せを委ねるということ自体が大間違いだということに、トムは最後の最後で気が付くことになる。嵐のような彼女に恋をした犬小屋みたいだった彼が、何もかも吹き飛ばされて(別れを経て)、ようやく建築家という夢と向き合おうと一念発起する。今度は口先だけではなく(グリーディングカード)しっかりとした設計(人生設計)の上で、家を建て(自らを奮い立たせ)、次のステージへと進もうとしているのだろう。だから、女性に幻想を抱いていたトムの目を覚まさせ、これを成長記とするために、サマーはひとりでその動機に足る十分な相手(やや荒療治)としてトムの前に現れる必要があったのだろう(わたしはトムもサマーも大好きですし、グリーディングカード自体を否定しているわけでもありません)。これがわたしの読む監督の描いた『500日のサマー』。でも一回観ただけではこういう風には観られないよねっていう…。キャストについて。独特な感性、ちょっと変わり者(に見える)なサマーに、ズーイー・デシャネルという配役はぴったりだったのではないかな(彼女の顔が嫌いっていう意見はフォローしようがないけれど)。そして、JGLを初めて認識したのは本作だったはず。わたしはこれで両者のファンになったのでした。あ、クロエも抜群に可愛いかったよ。さてさて、ここまで読んで下さった方には、このスコアの本当の理由を白状します。本作は随分前にBlu-rayを購入して鑑賞したのだけれど、特典映像として収録されていたショートフィルム(ほぼMV)『Bank Dance』が最高で大好きで、当時やたらと高いスコアをつけたのは、それも加味したものだったなと最近再鑑賞して思い出した。むしろ心から好きなのはそっちの方だったり…何回観ても飽きない(もちろん本編も好き)。その好きは何だろうかと考えてみたところ、『恋のからさわぎ』のあの演者が楽しんでいる感じと似た空気を感じたのかなと思えてきた。ついつい頬が緩んでしまうやつ。JGLとヒース・レジャーを重ねてまるで兄弟のようだなと勝手に妄想した思い出も、もしかしたら無関係ではなかったかもしれない。興味のある方はご覧になってみて下さい(一部修正しました)。それとかミニシアター系を本格的に観始めた頃の思い出の作品だったからとか、内容とは関係のないところでスコアをつけてしまっているけれども、自分はそもそも映画はどう撮られるべきかとか、そこから何かを導き出して観る人でもないので、こんなもんです。基本思い入れです。filmarks内のどなたかのレビューだったか、別に映画が好きなわけじゃなくて、好きな映画が世の中にあるだけなんだ、みたいなことを仰っていた方がいて、凄く凄く共感した。その通り。
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