あんず

奇跡の海のあんずのレビュー・感想・評価

奇跡の海(1996年製作の映画)
4.2
大学生の時に友達から薦められてレンタルして観たことがあったのを思い出した。当時、よく知られた人気作品しかほとんど観ていなかった私は、こんな暗い映画が好きという友達を随分大人っぽいなと感心した。あの子は今、どうしているかな。

チャプターごとに挟まれる風景の映像と流れる音楽がお洒落。舞台のスコットランドの潮風が吹く曇り空の風景を観ていると、無性にアイラモルトが飲みたくなった。スモーキーな味わいはこの映画にピッタリ合う気がする。

昔も今もヤンが掴めず、好きになれない。でも、信仰心の厚い純粋無垢なベス(エミリー・ワトソンの演技がスゴい)は盲目的に彼を愛している。それが悲劇へと繋がるわけだけれど、大学生から随分と大人になった私は、2人の悲劇的な愛の物語よりも、今回は信仰心の恐ろしさが印象に残った。

『シークレット・サンシャイン』を観た時と同じような恐さを感じた。70年代初頭の厳格なプロテスタント信仰の強いスコットランドの寒村が舞台とのことだが、教会で女性は発言することさえ許されない。教会の決定には逆らえず、一度追放されてしまえば家を追い出され、家族とも絶縁状態となる。ベスが子どもに執拗に石を投げつけられるシーンがすごく残酷で、見ていられなかった。

信仰の名の下に人が人を蔑み、苦しめることは許されるのだろうか。そんなことを「神」というものは望んでいるのだろうか。ラストシーンはどう捉えたらよいのか。そんなことを思い、またいつか観てみたい作品だ。
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