柏エシディシ

真空地帯の柏エシディシのレビュー・感想・評価

真空地帯(1952年製作の映画)
3.0
Black Holeで話題に上がっていて気になっていた岐阜のフィルム上映専門劇場、ロイヤル劇場さん。
Jリーグ最終節が偶然長良川の開催となり、これは何かの縁と思いスタジアムに向かう道すがら立ち寄った。
味のある入り口から昭和の匂いのする建物、初めて訪れるのに何処か懐かしい気持ちの湧き上がってくるタイムスリップした様な感覚に陥った。貴重な体験だった。
たまたま上映していた作品を飛び込みで600円。
野間宏、原作。まだ戦争の記憶も生々しかったであろう1952年の作品。
兵学校の苛烈なモラハラパワハラ。
後年の映画ほど戯画化されていない面もあり、よりリアリティがありすぎるほどにある。ビンタの音の生々しさ。
近年の戦争や戦後の日本復興を美化したがる邦画作品より、私たちはこの頃の先人たちの残した作品をもっと観るべきなのかもしれない。
そして、戦中、という枠組みだけでは片付けられない、今なお日本の組織や気質に蔓延る負の側面を見つけるにつけ、暗澹たる想いに駆られる。
なーんも変わっていないのかもしれない。私たちは。
ノイズや傷がところどころに入るフィルムの上映。
しかし、状態が良く画質も作品テーマに絶妙にハマるモノクロの画面が映えていて感動した。
90年代以降の映画のリマスター作品が流行っているが、デジタル時代より、よっぽどこの頃のフィルムの方が、その美しさを残しているのかもしれない。
それもこれも映画を大事に残し引き継いでくれた先人たちの意志と功績。
ロイヤル劇場さん、経営は厳しくクラウドファンディングなどもされているとのこと。末永く残って欲しい劇場だ。
是非、また訪れたいと思う。
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