名作が名作であるために大切な条件の一つに「衝撃やトラウマを残すこと」があるとしたら、今作はなかなか上位に食い込むのではないか。胸糞注意。
双子の姉弟が亡くなった母親、彼らの知らない父と兄の真相へ迫っていく。『ボーダーライン』『メッセージ』『DUNE/デューン 砂の惑星』などに通ずる、「未知のもの」「自分の手ではどうにもならないもの」に迫る/翻弄される主人公構造はこの頃から変わっておらず、作家性を感じる。
ネタバレ無しにテーマや魅力を語るのが難しい映画だけど、サスペンスとしてまず面白いので推したい一作。こっちに行って一つ謎が解けまた謎が増え、あっちへ行ってまた謎が解け謎が増え....の王道な構成、さらに現在と過去が交互に進むこちらも王道な構成が重なることで、ある一つの真実に集約していく様が気持ち良い（気持ち良くない）。
それでいて最大のネタバラシの瞬間はとことんスマート。無音の後、某人の息を飲む音と嗚咽が聞こえた瞬間にすっと体温が下がったのを感じた。
衝撃のラストとは聞いていたので、『ゴーン・ガール』的な話かそれとも『オールド・ボーイ』的な話かと予想しながら観ていましたが、なるほどと。
レバノン内戦が舞台となっているため、残酷でやるせない描写が続きます。特にバス銃撃のシーンは地獄。機転を効かせて幼女を救おうとしたあの瞬間に、全ての慈悲が無に帰していく虚無を覚えた。
そのように誰もが憎む内戦・戦争が軸にあるものの、最終的にはもっと根源的な人間の「業」「赦し」の話になっていく。胸糞悪い話ではあるけど、それだけではない余韻が残る点がヒューマンドラマとして高性能だと感じる。
不満点を挙げると、
○ 父と兄にまつわるエピソードが表層のみで、もう少しそちらに深みが欲しかった。
○ 最重要となる出来事のきっかけが、「偶然」に依存し過ぎている気がする。悪く言えば出来すぎた話。だからこそあれだけ打ち拉がれる、とも捉えられはするけど....。
《⚠️以下、ネタバレ有り⚠️》
兄と父が同一人物、最悪な近親相姦。
倫理的に最もNGなラストで、胸糞悪さMAXのまま終わりそうなところだけど、母親は「父親」を糾弾する一方、「兄（長男）」には愛を伝えて幕を閉じる。
ここまで割り切れるものなのかと、正直感情移入という点ではそこまでな作品だったけど、やりたかったことは伝わってきた、そんな映画だった。
父にまつわる「断罪・怨念」の心も、兄にまつわる「慈愛」の心も、彼女は墓場まで持って行くことは出来なかった。全てを彼女の血を引く姉弟に託して暴くことで、負の連鎖を断ち切ろうとしたナワル。彼女の下したような決断が広がれば、レバノンで経験したような無慈悲な争いも無くなるのか？と考え出すと止まらない。
