甘口パンダ

イリュージョニストの甘口パンダのネタバレレビュー・内容・結末

イリュージョニスト(2010年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

シルヴァン•ショメのアニメーションが見たい!

ということで、こちらをチョイス。

アニメーションだけど、この映画全体に漂う哀愁を、子どもは理解できるんだろうか。

いやいや、無理だな😌

大人には沁みると思います。人生のベテランになっていれば、なっているほど沁みまくることでしょう。


これは1950年代、時代の大きな変化の前に、その流れから取り残されてしまったマジシャンの物語。パリ〜イギリスへの旅を通じて、新しい時代に置いていかれたという事実を、彼自身が受け入れるまで。その様子が美しいアニメーションで描かれていきます。


主人公のタチシェフは、一見飄々としています。穏やかというか、枯れているというか、諦めているというか。とにかく軽やかに流れに身を任せて各地を転々としていくように見えます。

でも、深層心理では、自分の境遇にかなりの憤りを持っていたのでは? 彼自身の仕草や言動からはうかがえないけれど。彼のうさぎが、彼の感情の代弁者であり、マジシャンとしてのプライドそのものだったのかな〜と。

うさぎは、タチシェフが理不尽な目に遭うと暴れるし、反応の悪かった舞台の後も暴れます。その後も、不貞腐れたりベッドの下に潜ってしまったり。うさぎの様子から、アリスへの複雑な感情も読み取れる気がして、とても興味深かったです。

タチシェフは、彼の宣伝ポスターの強気な表情からもうかがえるように、一時期はもてはやされた良い時代もあり、職業に対する誇りとか意地もあったはずだもの。

飄々として見えても、こんな境遇で穏やかな心でいる人なんて、いないよねとか。しみじみしんみり、思っちゃったり。。

表層は何かを諦めたように見えても、「なぜこんなことに」とか、「こんな事態は受け入れられない」とか、複雑な思いが心の底の方で渦巻いていたのではないでしょうか。そう思わせるうさぎでした。


アリスは確かにちょっと困った女の子でもあったけど、変化に抵抗する彼にとっては、昔のままで居続けようと足掻く自分を、もう少しだけ応援する都合の良い存在でもあったんじゃないかな。
水色のドレスは『不思議の国のアリス』を連想しました。(そういえば、イギリスだなぁ🧐。この児童文学も読んでみたら、映画と何か関連あるのかも?)

タチシェフがアリスを避けて逃げこんだ映画館。
急に実写が出てきてびっくり! 
印象的な使われ方をしたこの実写映画は、ジャック•タチの『ぼくの伯父さん』(1953)。白黒テレビが普及し始めた頃、すでにカラー映画があって、ジャック•タチもカラー映画を撮ります。初めての作品がこれだそうです。

新しいものを取り入れるジャック•タチ。タチシェフは、時代に乗っていくもうひとりの自分を見たのかもしれない。時代の流れを認めて、変化の必要性を受け入れるタチシェフ。

切ない痛みをともなうものの、前向きな選択だ。第一、他に選択肢はなかった。腹話術師の末路はタチシェフにもあり得たんだから。

列車に乗るタチシェフ。表情はよくわ分からなかったけど、マジックで取り出した鉛筆が短いままだったことが変化のしるし。これから再スタートを切り、彼なりの新しい姿を探していくんだと思いたい。娘にも会いに行くと良いなぁ。




『ぼくの伯父さん』もさらっと鑑賞。

犬、ソーセージ&ホース、傘、コート。
他にもたくさん、「お〜、このシーン、『イリュージョニスト』のアレじゃないの!!」みたいなのがあります。
2本を合わせて見たら、『イリュージョニスト』の中にクスッと笑える嬉しいシーンが増えました。この監督さん、ジャック•タチが大好きなんだろうな。
『ぼくの伯父さん』が『イリュージョニスト』のやりきれなさや切なさを慰めてくれて、温かい映画という印象が加わりました。

ぜひ『ぼくの伯父さん』も一緒に見てください✨
『イリュージョニスト』がより愛しくなりますので。
甘口パンダ

甘口パンダ