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ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃のKuutaのレビュー・感想・評価

3.9
平成ガメラシリーズの金子修介監督による25作目。
太平洋戦争で死んだ人の魂がゴジラに宿って日本を襲い、「大和」の聖獣であるバラゴン、モスラ、ギドラが日本の国土や自然を守ろうと戦う。

オカルト風味と硬派な軍隊描写がミックスされた金子節。当時子供だった私は画面のおどろおどろしさと独特の雰囲気に圧倒され、一瞬でゴジラファンになった。その後も何度か見ているが、久しぶりの鑑賞。

(当初案は氷のアンギラス・炎のバラゴン・風のバランだったのが人気怪獣に差し替えられた。みんな地味だけど、こっちはこっちで楽しそうだ)

総評としては、バラゴン戦までは傑作。横浜決戦前までは良作。モスラ・ギドラ戦はやや退屈で、人間ドラマも急に取ってつけた感じになる。終盤の失速が目に付くものの、毒にも薬にもならない作品とは一線を画す、良い意味で変な映画だと思う。

粗もあるが、VSシリーズ、ミレニアムシリーズでは今作をベストに挙げたい。

総じて演技は抑えめで湿っぽくない。心情をセリフではなく、セリフを言った後の表情で見せる演出がテンポの良さに繋がっている。ラストシーンでも「残留放射能を確認してない」と親子の大団円を避ける。

・主人公由理(新山千春)=ゴジラを知らない若い世代の民間側
父親(宇崎竜童)=ゴジラに親を殺された国側、という対比が脚本の軸となっている。

パニック映画はリアル路線にするほど国の描写を増やさざるを得なくなり、マスコミなど民間側の重みを出せなくなるジレンマに陥りがちだが、今作は国と民間の対立=親子の物語に置き換え、なんとか成立させている。

父親は序盤、由理にゴジラの情報を伝えない。「スクープだったのに」と憤る由理を「仕事なんだから」とたしなめる。その後、由理はゴジラが人を殺す様を見て、報じ続ける決意を固め、危険を顧みず中継する。仕事人としての彼女の姿を見た父親は、由理に取材許可を出す。最後は2人が並んで海に向かって敬礼する(「敬礼はふざけてするものじゃない」と言っていた冒頭と対照的に、父が娘を認めたと分かる)。要素が多くて分かりづらいものの、由理が取材を通して手に入れた石が、父親を救う展開になっている。

・「仕事」は他のキャラクターのキーワードでもある。
「民間機は引っ込んでろ」と怒る兵士。バラゴンのやられっぷりに胸が詰まるカメラマンと「怪獣に同情してどうする」と撮影を続けさせるディレクター(2人とも容赦無く殺される)。大怪我した由理に「もう君の仕事じゃない」と取材を止めようとする武田(小林正寛)。軍不要論を避けるために芹沢博士の存在を隠し続けた防衛官僚(村井国夫)の「これが仕事なんだ」。「予算内でそこそこの番組を作れば良い」と言っていた門倉(佐野史郎)は、由理の姿に熱意を取り戻していく(「放送界のゴミ溜めに咲く一輪の百合!」という無駄な煽りが好き)。

・初代の続き設定なので防衛軍。「国を守って戦ってくれる」と讃える台詞が多いが、墜落した戦闘機が民家を壊す描写は、自衛隊でやっていたらクレームが付いてもおかしくないだろう。あえてチューヤンに声援を送らせるのも面白かった。

・病院の混乱、トラウマで手の震えが止まらない人。最初の上陸が「死の灰の記憶」というポスターが掛かり、第五福竜丸の所属していた焼津港なのも考えられている。最初の熱線シーン、溜めてからの遠景のキノコ雲への切り替え、そして「原爆…?」。歴代ゴジラでも屈指の名場面だろう。熱線を向ける相手がスーパーのおばちゃんなのが小物っぽくも感じるが、日本人全員に対する見境ない怒りでもあると都合よく受け取っておく。当初聖獣なのかゴジラなのか区別が付かなくて混乱するシーンもリアルで面白い。

・逃げ場のない絶望感を見せつける。有名な篠原ともえの病院のシーン、わざわざ足が骨折して動かせない様を見せてからの…という嫌らしさ。ロープウェイの目の前を通り過ぎるバラゴンや、熱線を受ける覚悟を決める角田信朗のシーンも印象的。

・恐怖、怒り、畏怖の象徴としての今作のゴジラは、霊感があるかのように真後ろの敵にも反応する。終始白目だが、眉がキッとなったり、意外と人間的な動きも。

・バラゴンは可愛いし頑張り屋だし不憫だし、最高でした。逃げられる状況だったのに頭から飛び込び、呆気なく吹っ飛ばされる。崖を登ろうとあわあわしている所に背後から熱線を浴び、ひっくり返って仰向けの体勢でダメ押しを喰らう。見事。

・モスラは割と淡白だった。前田愛と前田亜季を小美人っぽく出すガメラの小ネタは良いにしても、グッと来るシーンはほとんどなかった。ギドラの身代わりで熱線を受けたところくらいか。羽化のCGも今見るとなかなかキツイ。

・ギドラは基本的に登場がピークな怪獣なので、復活シーンのCGがショボかったのが非常に残念。2度も奇跡の復活をしながらあっさり爆散するダメさ加減は伝統芸という感じ。最後が海中なのは初代を意識しているんだろうが、暗くて見にくかった。

・伊佐山老人の話を信じて突っ走る由理という脚本には、客観的には無理があるとも思うが、演じているのが天本英世だから納得できてしまう。そもそもオカルト話だから、多少展開の詰めが甘くても目くじら立てる感じにならない。そんな不思議なバランスで成り立っている映画だと思う。

とはいえ、新山千春のなんとも言えない力んだ演技や唐突な恋愛要素、納得しにくい宇崎竜童の生還など、ラストのまとめ方はかなり雑で、製作側も力尽きたのか?と感じた。

・ギドラの祀られた神社で3人の顔がアップになるショットは、ギドラ初登場となった地球最大の決戦オマージュだろう。箱根の山影からゴジラが首を出す場面は初代ゴジラの初登場を再現している(バラゴンを背に記念撮影していた観光客が背後のゴジラに気付く。視点の入れ替えを使った恐怖演出が素晴らしい)。78点。
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