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こわれゆく女のKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

こわれゆく女(1974年製作の映画)
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全てのシーンがきつい。まるでキャラクターと同じ空間にいるかのような気まずさの理由は、キャメラのレンズにあると思った。長焦点距離のレンズであるが故に我々は物語世界を覗き込む/盗み見ることができる。キャメラを客体に合わせて移動させると、遠くのものを拡大して観ているために、わずかな移動が大きな移動になるというズレが生じる。同軸でショットサイズを変えるショットが多いが、キャメラポジションを移動させるのではなく、ズームインすることで、客体のショットサイズを変化させている。観客の眼は本当は遠くにあるはずなのにクロースアップのキャラクターを眺めることになる。実際にいる位置と、スクリーンに映る客体の見た目にズレが生じる。このズレが、窃視の感覚を常に観客に抱かせることとなる。だからとてつもなくいたたまれない。「私は彼らを観ているんだ」と常に思わなければならないから。どのレンズで撮るかに作り手の世界の見方や倫理観が如実にあらわれるという、当たり前のことをひしひしと実感させられる、凄まじい作品だった。

安易に支配的でヒステリックな女性に搾取される男性とその家族という構図にしていないところにカサヴェテスの真摯さを感じた。直視できない家族の現状が生々しく記録されているのは、対象を突き放すことにより生まれたものだと思うが、それにより唐突にユーモアが生まれてしまうのもまたおもしろい。
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