ギズモX

幻の湖のギズモXのレビュー・感想・評価

幻の湖(1982年製作の映画)
3.7
【沖島には人が住んでいる】

いよいよこの映画と対峙する時が来た。
"琵琶湖を舞台とする愛犬を殺された風俗嬢のマラソン復讐劇"という邦画最大級の怪作『幻の湖』
滋賀県民である以上、いつかはこの映画を観なくてはいけないなと以前から思っていて、今回思い切って鑑賞してみることにした。

第一感想としては、うん、まあいろんな所を観光してるし、普通にご当地映画とか、田舎者が都会の民にリベンジする『翔んで埼玉』的な地方逆襲物語として見るべきだなと思った。
鵜川四十八体石仏群とか、今だったらメタセコイヤ並木だろうなあ。

「憎い、あいつが憎たらしい!」
「"東京中の人間がみんなであいつを庇っている!"」

こんな正気を失ったセリフ他に聞いたことない!
何をどう生きたらこんなセリフを思いつくんや?!
ぶっ飛びすぎにも程があるぞ。

ただ、映画を撮るための撮影技術とかは意外としっかりしている。
その証拠に時代劇シーンはまとまりがあって面白い。
だけど、なんだろう、映画作りにおいて一番大切な部分、点と点を結びつける線が抜けたまま全力で駆け抜けちゃったから全てが怪文書レベルで狂ってる。
おそらく、それが一番表れているのが沖島のくだりだ。

物語中盤、主人公のお市が、
「ひとりぼっちで寂しそうな島ねぇ」
「沖島、あの沖島が今の私だわ」
と孤独な自分と重ねて感情移入していた沖島には、本当は人が住んでいたことで泣き崩れる感動(?)の場面が導入されるが、これは、
"沖島に人が住んでいるのは東側だけで、お市が住んでいる西側からは見えない"
"滋賀県は湖北と湖南、湖東と湖西で世界が違う"
"滋賀県民は余程のことがない限り、琵琶湖の反対側にへは行かない"
を利用した演出なんだろうけど、
いや、滋賀に住んどったら沖島に人おんのぐらい分かるやろ!
何で沖島に感情移入して、人が住んでることで泣いて抱き合ってんの?ああさんら!
ここで僕は抱腹絶倒した。

でも、仮にも東宝設立50周年記念作品、ましてや『七人の侍』『生きる』に携わった大御所がですよ、東京でもなく、京都でもなく、我らが滋賀を誰に頼まれた訳でもないのに余すところなく映して、果てには"沖島には人が住んでいる"ということで大泣きする場面を撮ってくれたことに、僕は笑いと同時に感謝の念が湧き上がってくるのだ。
琵琶湖に沈んだ女の恨み節がちょっと分かったような気がする。

ここからは劇中で映った滋賀スポットで言いたいこと。

まずは竹生島。
この映画の中では緑豊かな姿で映っているが、公開後の平成に入ってから外来種のカワウの襲来で一部が禿山化してしまい、一時期は尋常じゃない環境被害を受けていた。

そして冒頭で映った白鬚神社。
今ではインスタ映えするという口コミで人気スポットと化したが、スピードを出しやすい湖西道路を無理矢理横断をする人が後を絶たないせいで滋賀随一の事故スポットと化している。

最後に現在では二つに分かれている琵琶湖大橋。
今は亡き琵琶湖タワーの対岸側には、ネットで一時期話題を掻っ攫ったあのピエリ守山が構えている。
明るい廃墟と騒がれていたのも今は昔。
2014年に奇跡の全面リニューアルを遂げて人気のショッピングモールとなった。

琵琶湖マラソンも新しい大会となって復活するらしいし楽しみだ。
今の時期はツーリングとかビワイチ(琵琶湖一周)しに来る人が多いです。

この映画をただ単に「クソ映画だ!クソ映画だ!」とキャッキャッしている奴にはこう言ってやりたい。
 
「お前なんかに琵琶湖に沈んだ女の恨み節なんてぇ!」
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