シュローダー

機動警察パトレイバー2 the Movieのシュローダーのレビュー・感想・評価

4.8
ちょうど本作は、「攻殻機動隊」に於ける「イノセンス」の立ち位置と非常に近い。つまり、1作目が比較的娯楽性を担保しながらも、深く考えさせられるテーマ性を同時に担保していたが、2作目でセンシティブなテーマ性を大幅に強化し、そこだけで話を進めてしまうという手法である。そして、この作品から、押井守がパブリックイメージ的な"小難しいおじさん"として作品を作り始める。しかし、僕は押井守のその部分にこそ陶酔しているので、全くの無問題である。今作では実質的に主役が後藤さんとしのぶさんに交代。その為、作品全体から漂うのは、大人の諦観である。そこが如実に現れているのは、中盤の後藤さんと荒川の対話シーンだ。不正義の平和が生み出す、正義の戦争。戦争の先に平和があり、平和の先に戦争がある。押井作品特有のループ的思考法であり、仰る通りとしか言えない問答である。このように、小難しい会話シーンを快楽的なセリフの応酬に変える才気こそ押井守節と言わずして何と言うのだろうか。そして、ラストのあの鳥が舞う美しい情景と、儚い恋愛の帰結は、非常に上品だと感じた。あのラストの落とし方一つで惚れてしまう。総じて、「シンゴジラ」より20年近く早く、日本的ポリティカルサスペンスを描いて見せた功績は非常に大きいと感じる。ガスのくだりは、公開年の2年後に地下鉄サリン事件が起きる事を踏まえると、笑えないリアリティがある。踊る大捜査線なんざより100億倍面白いサスペンスがここにある。