シュローダー

暗殺の森のシュローダーのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
5.0
オールタイムベスト。「この映画はどうして僕の気持ちがこんなにわかるんだろう」と不思議に思う映画に出会う事が稀にある。この「暗殺の森」はまさにそういう類の、「七人の侍」の三船の如く「これは俺だ!!」と叫びたくなるような映画だった。それは何故なのかといえば、ひとえにジャンルイトランティニャン演ずる主人公の造詣が素晴らしいからである。簡単に言って仕舞えば「社会的な"普通"に憧れて自分を騙しながら生きているが、本当に惹かれるのはアブノーマルな魅力を纏った女性」という男。これがもうダイレクトに自分と重なるというか、これまでの自分の人生を思い出してみても、狂った性格や人生経験を持つ女性に惹かれて心を破壊されるという経験を繰り返してきたので、この主人公の気持ちが手に取るように分かってしまう。そんな病んだ主人公の精神状態とファシズムを受容していた当時のイタリア国民を直結させるのも巧いし、それを言葉を使わずに映像の素晴らしさと時系列を巧みに交錯させる編集だけで見せ切るのも神業の域。特にヴィットリオストラードの撮影に関しては現代のどの映画にも優っていると思わされるもので、絶えず動き回るダイナミズムも勿論だが、枯葉が塗れの実家と大理石のファシズム建築の対比であったり、会話の最中、徐にイマジナリーラインを超えてみせたり、「享楽的な概念」と「それに触れられない主人公」を遮蔽物を介して分断するショットや、トリコロールカラーの建物の中で「ダンスを踊れない」という不能感を突きつけたり、クライマックスのカメラブレブレの手持ち撮影での惨殺シーンだったりと、キャラクターや物語の不安定で病理に満ちた背景をセリフに頼らず完璧に表現する撮影になっていて、本当に惚れ惚れした。まだまだ味わい尽くせない魅力があるのは百も承知だが、自分の理想の映画と出会えた勢いで円盤も買ってしまったので、何度も観てこの映画を自分の人生の一部にしたいと心から思えた。