マヒロ

獣人のマヒロのレビュー・感想・評価

獣人(1938年製作の映画)
3.5
機関士であるジャック(ジャン・ギャバン)は、発作的に暴力を振るってしまう奇妙な衝動を抱えており恋人との結婚も諦めた過去があった。ある日、彼が乗り合わせた列車内で痴情のもつれによる殺人事件が起こり、犯人である男とその妻・セブリーヌ(シモーヌ・シモン)を唯一見かけたジャックだったが、聴取の際にセブリーヌと視線を交わしたジャックはそのことを警察に言わずに彼女を庇う。そこからセブリーヌとの交流が始まるが、彼女は嫉妬心から殺人を犯した夫を恐れており、ジャックに殺害を唆してくる……というお話。

妖しげな美女が主人公を惑わせるというフィルム・ノワール的な作品だが、主人公も闇を抱えており底が見えないところが特殊。セブリーヌに魅せられて堕ちていくジャックも哀れだが、それ以上にいつ爆発するかわからないジャックにずっとくっ付いているセブリーヌの身が心配になってしまうところがなんか不思議な感覚だった。
そんなジャックの暴力衝動が“遺伝”というだけで片付けられてしまっているのはやや雑に感じるが、そこは時代もあるし仕方ないと思うしかないかな。

内に秘める衝動を代弁するかのように荒々しい音を立てて走る汽車の力強さ、猫を抱いて登場するシモーヌ・シモンのしなやかな妖艶さ、頬を寄せ合って愛を表現する二人の絶妙ないじらしさなど、要所要所にハッとするようなカットがあるのが流石の演出力。シンプルながらも求心力のあるストーリーも含めて、満足度の高い作品だった。

(2023.11)
マヒロ

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