えむ

日の名残りのえむのレビュー・感想・評価

日の名残り(1993年製作の映画)
3.9
放映していたので久しぶりに再鑑賞。
私としては結構好きな作品です。

日系イギリス人作家、カズオ・イシグロ原作の、ジャンル的には少しほろ苦さと切なさの残る大人のラブストーリーということになるのでしょうか。

大きな屋敷で長年働いてきた執事のスティーブンス、その時の同僚であったケントン。

今や主人は他界し、屋敷は他の人のものとなり、新たな主人に勤めることになったスティーブンスのもとに、かつての同僚ケントンからの手紙が届いて、彼女をまた屋敷で共に働かないかと誘いに行くのです。

かつてお互いが淡い想いを持ちながらも関係を進めることが無かった過去と、その現在が行ったり来たりしながら語られます。

ダウントンアビーのシリーズなんかで後に詳しくなったけれど、良い家の執事というのはかなり地位も高いし、規律を守り屋敷の全てを牛耳る老中みたいなもの。
その分、仕事へのプライドも高いし、ある意味決まり事や伝統への執着も強くて、ましてや使用人同士で恋愛なんて、て思ってるフシがある。

そのプライドのせいで、淡い想いをよせるケントンの結婚話を止めることもせずに2人は別れることになったけど、結局は今更起こってしまった過去は変えられないし、もしかしたらの未来はもう来ることがないんですよね。

取ってつけたようなハッピーエンドではなく、見えるところ、見えないところで様々なドラマはありつつも、結局は『そんな簡単に変わらない』『変わらないその未来がこれからも淡々と続いていく』というような、諸行無常感が漂いほろ苦さを残して終わります。

でもそれがとてもリアルな現実を見せつけてくるし、だからこそ私たちはその時その時の選択に責任を持たなければならないんだなと思わされます。
単純なラブストーリーでなく、人生観にも繋がる話だなと。

これは、『私を離さないで』とか、他の彼の作品にも通じるところで、私は結構嫌いではないんですよね、彼の作品。
ちょっと全体のトーンは暗いんだけど 笑

カズオ・イシグロ氏は賞を撮った時に突然盛り上がる日本人を見て『私は日本人ではなくあくまでもイギリス人だ』と言った話を聞いた事があるけど、それはそうだよねと思いつつ、この諸行無常の感覚は、ある意味アジア人の感性でもあるのかなと思ったりもします。

ホッコリするとかキュンキュンするとかって感じでは決してないけど、なんというかスルメのように味のある作品ですね。
えむ

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