幽斎

砂の惑星の幽斎のレビュー・感想・評価

砂の惑星(1984年製作の映画)
3.0
恒例のシリーズ時系列
1971年 DUNE David Lean監督作品、製作中止
1973年  DUNE Alejandro Jodorowsky監督作品、製作中止
1984年 3.0 DUNE デューン/砂の惑星 本作、初の映像化作品
1988年 4.0 DUNE デューン/砂の惑星 1984年版に未公開シーンを追加、189分
2000年 4.0 DUNE デューン砂の惑星 アメリカ・カナダ・ドイツ製作TVシリーズ
2003年 4.0 DUNEII デューン砂の惑星II 2000年版の続編、意外と出来は良い
2011年  DUNE Pierre Morel監督作品、製作中止
2013年 4.2 Jodorowsky's Dune 難攻不落と言う未完の傑作、レビュー済
2021年 5.0 DUNE PART ONE デューン/砂の惑星 レビュー済
2022年  Dune: The Sisterhood スピンオフ、前日譜、現在製作中
2024年   DUNE PART TWO 続編、製作決定!
2027年? DUNE PART THREE 続編で完結しない場合(笑)

世界的に有名なFrank Herbert原作「DUNE」。日本は映画の影響で「デューン/砂の惑星」と呼ばれる。小説の素晴らしいのは、単なるエンタメSFではなく、人類の進化と生存と滅亡に留まらず、生態学や宗教学に政治力学など、示唆が非常に多方面に及び、サイエンスを超えた文学的価値観が高く評価され、当時では画期的なエコロジー視点まで網羅。この小説からヒントを得て創られたのが「スターウォーズ」George Lucasもそれを認めてる。宮崎駿監督も「風の谷のナウシカ」原作小説に影響を受けたと述べてる。何を真似たかご覧頂ければ一目瞭然。

小説が発表されて直ぐに「猿の惑星」で知られるArthur P. Jacobsが権利を獲得。「アラビアのロレンス」名匠David Lean監督で1971年に映画化。が、Jacobsの急死で休止。権利が漂流する中、Alejandro Jodorowsky監督が指揮を執り、美術にH. R. Giger。音楽はPink Floyd。視覚効果はDan O'Bannon。出演は美術家Salvador Dalí、Orson Welles、Udo Kier、David Carradine。監督は小説6巻全てを映像化する為、10時間必要だと力説。自信満々でハリウッドに行くも、プロットが前衛過ぎて相手されず却下、フランスの会社は破産を恐れ逃亡。納得いかない監督は後に「ホドロフスキーのDUNE」を発表。絵コンテの凄さだけでも見る価値あり。

イタリアの名プロデューサーDino De Laurentiisが権利を獲得。1976年「キングコング」アメリカで大ヒットさせ、当時無名で演技経験ゼロのJessica Langeをスターにする等、絶頂期を迎えた。イタリア人ながら異例の活躍を見せる彼に対し、ハリウッドは「インディペンデントの生ける伝説」と尊敬の念され持たれた。その後作られた「フラッシュ・ゴードン」「コナン・ザ・グレート」は、Jodorowskyのボツに成った「砂の惑星」絵コンテを元に創られる等、既に接点は有った。ハリウッドBig-6全てにプレゼンして撃沈した「砂の惑星」を彼が作ると言い出しても、誰も疑う者は居なかった。

ハリウッド・メジャー、ユニバーサルが世界配給権を獲得。キャスティング等は全てLaurentiisに任された。実際に取り仕切ったのは、娘のRaffaella De Laurentiisだが、JodorowskyがPink Floydを起用したのを踏まえ、私の好きなアンビエント・ミュージックの第一人者Brian Enoと、TOTOが音楽担当。監督は当時無名のRidley Scott。彼はCMディレクターとして数々の賞を受賞した新人監督。だが演出方法、特に英国貴族を由来とするゴシックに拘るRidleyと、ヒット狙いで分り易さを主張するユニバーサルで、意見が対立。無名の監督が折れるのが当たり前だが、自らハリウッド大作から降りてしまう。

其処で起用されたのが、アカデミー作品賞候補「エレファント・マン」David Lynch監督。Jodorowskyの「カルトの帝王」後継者でも有る。因みに降板したRidley Scottは、Jodorowskyがスタジオに残した「砂の惑星」の絵コンテを見て、仕事が無くなり破産寸前のH. R. GigerとDan O'Bannonに声を掛け「私達で別のSFを創ろう」。出来たのが名作「エイリアン」。もし、あのまま完成してたら「エイリアン」「ブレードランナー」は逆に無かっただろう。だから映画って面白い。

Lynch監督も「エレファント・マン」の成功で次回作が勝負に成る。あのGeorge Lucas監督から「君のイレイザーヘッド、とても個性的で面白かったよ。是非スター・ウォーズ ジェダイの復讐の監督をお願いできないかな」と電話が鳴る、しかし、浮かれてた監督は「人の続編は面白くないな」と断ってしまう。監督が自主制作したイレイザーヘッドは、資金面の苦労が絶えず、エレファント・マンは、パラマウント製作で作品作りに没頭できた。「砂の惑星」はユニバーサル。資金面でも問題なく、二つ返事で引き受けた。これが後で揉める要因に為るとは。

Kyle MacLachlanは監督の抜擢だが、他の出演者はハリウッドは勿論、国際派スターが集結し流石はメジャー・スタジオと感激。撮影に没頭できる環境を提供したLaurentiisにも感謝しながら順調に製作は進んだ。小説全6巻を纏めるのは至難の業だが、仕上がった作品は、初期編集の段階で上映時間4時間を超えてた「あー、これは2部作だな」と軽く考えてた監督だが、訪れたユニバーサルの重役は冷たく一言「馬鹿じゃないのか、2時間以内に収めろ!」と言われ帰ってしまう。監督は激しく抵抗したが、Laurentiisも「ユニバーサルが配給しないと私も破産するし、スタッフにも給料を払えない」と説得されたが頑として譲らない。

契約の時に編集権はスタジオ側に有る事を、弁護士から聞いて監督は初めて知った。自分が丹精込めた作品を切り刻むのは忍びない。痺れを切らしたユニバーサルは、フィルムを持ち帰り、別の編集者が137分に裁断して作品は完成。当時のレートで製作費120億円の超大作、公開しない選択種は無い。作品の出来は皆さんご存知の通り。Jodorowsky監督が大失敗作だと息子と笑って一緒に見た事を「ホドロフスキーのDUNE」で語るが、誰よりも悔しかったのはLynch監督その人。

この教訓から次作「ブルー・ベルベット」以降、他の契約よりも最優先でファイナル・カットの権利を盛り込んだ。因みにRidley Scott監督は、CMディレクターの経験から、1コマの大切さを知ってるので、新人時代から最終決定権を有していた。M. Night Shyamalan監督に至っては、自ら製作費を出して続編を他人に創らせない徹底振り。監督の経験は、その後「ツイン・ピークス」に繋がって行く。劇場公開時は酷評された本作だが、監督のファンからは一定の支持を集め、レンタルでは高回転を記録。それに目を付けたプロダクションが、元の4時間余りの作品を元に、189分のテレビ特番用の再編集版を製作。その後ソフト化されるが、Lynch監督の下で編集に携わったAntony Gibbsから「監督の名前で作品を出すな!」クレームが入り、監督名不詳Alan Smithee名義で放送された。

「砂の惑星」を始めて見る方は、本作よりも再編集版「デューン/スーパープレミアム 砂の惑星・特別篇」の方が、ダイジェスト感は多少改善され、纏まりが有るので其方がお薦め。見れる環境の方はWilliam Hurt主演「デューン/砂の惑星 上巻~大いなる砂漠の星」から始まるTVシリーズが、作品の全体像も分り、お時間の許す方にはお勧め。私的には2016年にハヤカワ文庫が出版した新訳版「上」「中」「下」の小説を推したいが、ネタバレしても新作の鑑賞の妨げには為らない。もう「砂の惑星」は現代の古典だがら。

原作を完読した身としては、本作には寛容だが完成品として観れば、やはり未完成で有る事に変わりない。本作のスティルスーツは、新作とデザインが共通してる等、不可能と言われた原作の映像化に果敢にチャレンジし、結果は兎も角も成し遂げた功績は評価に値する。本作が無ければ2021年版も無いし、Jodorowskyも「ホドロフスキーのDUNE」を製作しなかった。SFと言うジャンルが、ホラーよりも格下感が強かった当時のハリウッドの雰囲気さえ一変させた。私はSFが無ければハリウッド自体が衰退の危機を迎えた、とすら思う。アメリカらしい技術革新が結びついて、今の映画産業は続いてる。改めて作った事に意義のある本作が再評価される事を切に願いたい。

映画的貢献度5点、SF的評価5点、作品の完成度1点。総合で3点が妥当かな(笑)。
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