ウシュアイア

ダンシング・チャップリンのウシュアイアのレビュー・感想・評価

ダンシング・チャップリン(2011年製作の映画)
3.4
<ドキュメンタリー特集⑪>
2011年06月24日

チャップリンの映画をバレエにした作品『チャップリンと踊ろう』を周防正行監督が、ヒロインに妻・草刈民代を迎え、映画として残した作品。
Ⅰ部は製作までのドキュメンタリー、Ⅱ部はバレエの演舞となっている。

公式非公式HPなどの解説を読むと、まず、フランスのバレエ振付師プティがチャップリンの映画を観て着想を得てつくったバレエ作品『チャップリンと踊ろう』があり、チャップリン役に唯一ハマるダンサーとして長年チャップリンを演じてきたルイジ・ボニーノに限界が近づいてきており、これを映像として残すということがこの映画の第一の趣旨のようだ。そして、ヒロインにバレリーナとして引退する草刈民代を迎え、彼女のバレリーナとしての姿を残すということもあるようだ。つまり、『チャップリンと踊ろう』というバレエ作品、チャップリンを演じるルイジ・ボニーノ,そしてバレリーナ草刈民代を映像として残した作品なのである。

また、監督自身が「バレエ入門」と言っているように、バレエとは縁のない一般の人たちにバレエの世界を啓蒙するという趣もあるようだ。

バレエというと、素人にはまず『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』であり、知らないだけかもしれないが、オペラなどに比べて女性向けのものが多い印象だが、この『チャップリンと踊ろう』という作品を観ると、バレエにもこんなコミカル作品があったんだ、ということに驚かされる。ドキュメンタリーの中で、ボニーノだったかが云っていたように、単にチャップリンのモノマネではなく、チャップリンというキャラを借りて表現した作品であり、素材(チャップリンの作品)の面白さ以外にも、バレエならではの面白さがある。

チャップリンに扮したダンサーが見せるバレエ特有の超人的な動きは、素材であるチャップリン映画の滑稽さによくなじんでいるのである。しかし、監督の振付師プティとの葛藤も見え隠れし、これがちょっとした消化不良を招いている。監督は「劇場中継にしたくない」という理由から、「二人の警官」をスタジオではなくロケでの撮影を主張し、プティは「ダンサーが良ければ必要ない」と言って、意見が衝突する。結局、監督の意向通り、「二人の警官」と「警官たち」はロケになっている。ただ、ロケはそれだけで、あとは完全にバレエの舞台のようなスタジオでの撮影になっており、監督が危惧した「劇場中継」っぽさが浮き出てしまっている。

バレエはダンサーの身体と踊りを見せるものだが、映画は背景なども含めて映像を見せるものである。元々映画であるチャップリンのバレエを映画にする、というまさに逆輸入のやり取りのなかで、バレエ的か映画的かのせめぎあいが見て取れる。やはり本作はバレエの方に傾いてしまっているがために、どうしても映画の作品として消化されているとは言い難い。そのため、自分にとっては本作は記録映画にしか見えないのだ。

とはいえ、十二分に映像に残すに値する素材であるし、何より、ボニーノと草刈民代のアーティストとしての素顔が魅力的である。そういう部分では非常によかった作品であった。
ウシュアイア

ウシュアイア