Habby中野

彼とわたしの漂流日記のHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

彼とわたしの漂流日記(2009年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

驚くほど丁寧で質の良い映画。俳優の演技、カメラワーク、編集、演出もさることながら、社会から追い込まれ死を決意し、その死からも見放された男と、社会から閉じこもり自分の世界でだけ生きる女が、漢江の無人島と高層ビル─ソウルの街の風刺めいた構造を舞台装置としてつながるという物語が感動的におもしろい。漂流男の物語への、引き籠り女の差し込み方─マンションの窓から覗く望遠カメラという装置をブリッジに、絶妙なバランスとタイミングで(映画の)カメラはそこを往復する。ファインダーを覗く人の眼の暴力性は、二重に、優しさと希望の眼差しに取り替えられる。男の生の捉え直しと、女の新たな一歩、成長という言葉では甘い二人の人生の革命が、尊く強く描かれている。そこを往復する映画の視線はブレることなく(撮影技法としてのブレは上手く使いつつ)、意志を感じさせる。久しぶりに映画に対する信頼を感じることができて、とても嬉しく、楽しかった。
終盤の冗長さに少し辟易しかけたところで現れる、民防衛訓練(空襲に備えた国民参加の避難訓練)を利用した巧みな伏線回収的演出。国による全体施作とその中で生まれる個人の人生の物語、その重みと軽やかさ。二人はその瞬間、ソウルという街から、韓国という国から、社会から、地球から、少し浮いた。
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