継

殺しが静かにやって来るの継のレビュー・感想・評価

殺しが静かにやって来る(1968年製作の映画)
4.5
賞金稼ぎを目の敵にする、物言わぬ殺し屋・サイレンス。
敵を挑発し、先に拳銃を抜かせ、正当防衛を成立させてから、撃つ。
弾速の速さで知られる自動拳銃、モーゼルC96だからこそ出来る芸当だ。

デジタルリマスター版で再鑑賞。確かに画質がもっと暗かった気もするけれど、それは救いの無いエンディングのせいかもしれない。
勧善懲悪を鼻で笑う様な陰鬱なストーリーに、ハープシコードを用いたモリコーネの美しい旋律が陰影を深く濃く、刻んでいく。
特典映像には2分に満たないハッピーエンディング(音声なし)が収録されているけれど自分には蛇足に思えて、、、或いは救いに感じる人もいるかもしれないけど、どうなんだろう?

気になるのは、プロダクションノートに “本作はキング牧師に捧げられた...” とあって、調べるとキングが暗殺されたのは1968年4月で、公開は同年11月。
製作開始時期は不明だが、もし「事後」だとすれば、
悲劇的なヒロインに黒人を充てた事や、映画的に何のカタルシスもないエンディングは、キングへのコルブッチなりの哀悼の意の表現なのかも?
そう考えると、ロコが言う「黒人と白人が同じ値段とは...ふざけたご時世だ」という台詞が、俄(にわか)に凄みを増して響いてくる。

罪の無い村人達を「山賊」と呼んで虐殺を繰り返す、悪者のハズの賞金稼ぎは “法の名の下に” と雄弁に「正義」を主張する。
けれど肝心の主人公はサイレンス、沈黙したまま。それはまるで、本来なら主人公が語るべき「正義」を観る者に考えさせるかのように。
更に、 “悪だとしても、撃ち殺して良いのか?それが正義か?” と矢継ぎ早に思考を強(し)いられているような、、そんな気がしてなりません。
決して声高ではないけれど、他作でも黒人差別を描いたコルブッチ、そしてベトナム戦争に異議を唱えていた生前のキング。。。

インディアン=悪という図式の、オールドスクールな西部劇の時代では絶対に描けないテーマ。表現としては随分と突飛で歪(いびつ)で、成功しているかは極めて疑問だけれど、これこそがコルブッチ!と、自分は思います。



これは余談ですが、“I have a dream ...” をはじめ、数々の名言・名演説を残したキングはこんな言葉も残しています。
In the end, we will remember not the words of our enemies, but the “silence” of our friends.
(結局、我々は敵の言葉ではなく友人の “沈黙” を覚えているものなのだ) 。
… 名前がサイレンスというのがそもそも奇異なわけで、もしかしたらコルブッチの脳裏にはこの言葉がよぎっていたのかも?なんて、つい妄想したくなってしまいます。
継