Kuuta

ディープ・インパクトのKuutaのレビュー・感想・評価

ディープ・インパクト(1998年製作の映画)
2.8
小さい頃の私はなぜか地球滅亡ものとゴジラばかり見ていました。テレビでは見られないスケールで日常が崩壊していく、緊迫感とワクワク。B級で大味な作品が多かったですが、こういう興奮こそが映画なんだと、勝手に思っておりました。

という事で私の原点とも言うべき定番映画。10年以上振りの鑑賞。

1951年の映画「地球最後の日」とアーサー・C・クラークの90年代の作品「神の鉄槌」をドッキングするという企画から生まれた今作。時代感や科学考証のレベルからして全く異なる2つの原作を採用したためか、宇宙パートと地上パートが完全に別物で相互に絡まず、観客は各個のエピソードにばかり目を向けざるを得ない。この雑な構成が映画としての物足りなさの根本にあろう。

宇宙パートはアルマゲドン的な隕石破壊ミッションで、こっちはまあまあ楽しめた。地球パートでは、100万人だけを地下シェルターに避難させる計画が発動し、選ばれし人とそうでない人の混乱の中で、様々な群像劇が描かれる。こうした地上でのドラマに力点を置いたのが本作の特徴だろうが、全体に人物の掘り下げは甘く、物足りない。以下、各論に。

冒頭のウルフ博士(チャールズ・マーティン・スミス)のしょうもない事故死はご愛嬌という感じだが、財務省の「エリー」を追ったジェニー(ティア・レオーニ)が少しずつ事態の異変に気付く導入部は不穏かつツイストも効いていて、良い滑り出し。

隕石の公表後始まる抽選の残酷さ。「選ばれない側」のサラ(リーリー・ソビエスキー)がリオ(イライジャ・ウッド)の元を離れ、そっと自分の家の側のソファへ向かうのが切ない。

母親すら助けられないのに「選ばれる」ジェニー。事態の大きさに上手く対応出来なくても仕事を続けようとするティア・レオーニの不安げな表情が◯。静かに化粧するジェニーの母(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)と、連絡を受けて無言で職場を離れるジェニーのシーン。過剰にならずに抑えた見せ方に徹しており、今作で一番良かった(病院関連のさらっとした描写はかつてERシリーズも手掛けたミミ・レダー監督の得意分野か)。

後半のジェニーは単なる説明役に回る場面も増えてきて持て余し気味に感じた。序盤繰り返されたキャリアアップ云々の話も、事態が悪化する後半はそれどころじゃなくなり放置されっ放し。

ジェニーのラスト、生と死、贖罪が交錯する海。自分が選ばれていいのか、との疑問への回答が最後の行動に繋がる。父(マクシミリアン・シェル)との和解の描写は一応いくつか積み重ねているが、彼女にはメサイアのクルーと違って「自己犠牲」に至る必然がないため、唐突に感じた。2枚の家族写真が動機なんだろうけど…あの写真が海で撮られているのが最後に親子を海岸に並べるためのご都合主義っぽくて、説得力を感じなかった。

続いてリオ(イライジャ・ウッド)のパート。全く好きになれなかった。「結婚すれば一緒に逃げられる、僕は有名人だから」という流れでサラと結婚するが、物凄く胸糞悪い話な気がしてしまい、本当に愛し合ってるのか最後まで納得できなかった。自分の手配の甘さからサラを置いてけぼりにした挙句、シェルターに入るギリギリになって「サラの為に帰る」とか言い出す。特別な選ばれし人でなく、一人の男として頑張りたかったんだろうが、覚悟を決める描写が不足(というか皆無)。リオの親もあの場面は普通はもっと引き止めるだろうに、物分り良過ぎる。

こういうテンションだったので最後のサラとの再会や、両親が自分を顧みずリオ達に自分の赤ちゃんを預ける今作最大の盛り上げ所も、物凄く冷めた目で見てしまった。

そもそも政府が決めたシェルター権を勝手に市民がやり取りしている時点で納得できないし、要は「選ばれた側」がどう生きたいか(=どう死にたいか)を選択するだけの話なので、一抹の切なさはあるものの、その決断に至るだけの切迫感は殆ど見出せない。やはり選ばれなかった側の苦しみを話の中心に据えるべきだったのではないか。

淡々と作戦の失敗を告げる大統領。モーガン・フリーマンが超越的な存在過ぎて、余裕そうに見える。ラストも旧約聖書を引用しているし(リオが山に登って助かるのも聖書っぽい)、演説でもやたらと神を信じろとか言っているが自分はシェルターに入れる側の人間。しかめっ面の重々しいショットばかりでなく、この部分の矛盾や葛藤はもっと描いて欲しかった。

宇宙パート。基本そこそこ楽しめたが、核を半分残した理由が何だったのかよくわからなかった。隕石から十分離れていないのに核を爆破して宇宙船に損害を与える場面は流石にアホすぎる。

視力を失ったオーレン(ロン・エルダード)に、米国の古典を聞かせる“フィッシュ”(ロバート・デュバル)。失明してかえって距離が近づく。絶望の暗闇の中でも色褪せないのが文化や芸術、過去の遺産の蓄積と言える(サラの母親も、死ぬ前に美術品を寄付する事で世界に貢献した実感を得る)。オーレンは当初は地球に戻ると言っていたが、白鯨の物語を聞き、戻らない決断を下す。白鯨=隕石=非情な神に抗おうとするメサイアの面々。

バラバラだったクルーがミッションを通してチームになる展開は上手く明示できておらず、物足りない。最後に女性がフィッシュに感謝を伝えるくらい。導入部でオタク風に隕石について語るガス(ジョン・ファブロー)を他のクルーが蔑むように見る描写は演出ミスのように感じた。地球を背負う彼らは肉体的にも精神的にも完璧超人であるべきなんだから、ああいう俗人的な描写は萎える。57点。
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