フライ

耳に残るは君の歌声のフライのレビュー・感想・評価

耳に残るは君の歌声(2000年製作の映画)
3.6
ロシアに住むユダヤ少女が、ホロコーストだけでは無く、色々な地で差別や迫害で苦悩していた人がいた事を、1人の女性を通して見せてくれると同時に、この時代女性が1人で生きて行く事の難しさと厳しさを教えてくれる悲しい作品。

本作前のスリーピーホロウで、ジョニー・デップとクリスティナ・リッチに魅力を感じて鑑賞した作品だが、当時はかなり失望した記憶が。ケイト・ブランシェットや、ハリー・ディーン・スタントンなどキャスティングも素晴らしいが、キャスト目当てで鑑賞するとガッカリするかも。

1927年ロシアの寒村に生まれたユダヤ人少女フィゲレは、美しい歌声の父親と優しい祖母3人で、貧しいながらも幸せに暮らしていた。しかし生活は困窮し、大好きな父親はアメリカへ出稼ぎに行く事に。その直後村は焼き討ちあい、祖母から父親の写真と金貨数枚を持たされ脱出するも、単身行き着いたのはイギリスだった。
フィゲレは、イギリスでスージーと名付けられ養父母に育てられる。英語を話せない事や宿無しのロマ人と学校で偏見に晒されながら、それでも美しい歌声を見込まれ歌を習う事に。大人になり美しい歌声と美貌で、父の写真を手にパリへ単身移り住み、コーラスガールとして働く事になるクリスティナ・リッチが演じるスージー。アメリカにいる父を探す資金を貯める為に努力をするのだが、ケイト・ブランシェットが演じた友人ローラやジョニー・デップが演じたロマ人の恋人チェーザーとの交流に光も見えていたのだが、第二次世界大戦勃発により更なる苦しみに見舞われてしまう。

ユダヤ人少女フィゲレが、大好きだった父親と再会出来るのかと言う過酷な旅と、過去を見つめながら自分自身を見つめ直す旅を描いた、とても重厚なストーリーだが、断片的に描かる事による展開の速さと、一部抽象的な内容などにより中々感情移入しずらかったのは残念だった。とは言えこの時代の悲惨さは、誰もが知る所にあるので色々と想像をしながら見ると、スージーの苦悩は痛い程伝わって来るので、観ていてとても悲しいし、残酷さでは無くとても綺麗な世界観で描かれているのが印象的で、これまで見てきた作品とは違った悲哀が感じられた。
メインであるラストも、もう少し丁寧に描いて欲しかったが、それでもしっかりと感動を味わえるだけの素晴らしさも。

クリスティナ・リッチの凛とした表情や悲しい眼差し、透明感のある歌が、スージーの味わってきた苦悩を上手く表現していて良かったし、ケイト・ブランシェットの友人ローラの、この時代を上手く渡り歩く、男性に媚びる悲しい性格が、スージーの悲哀を強調していたのは素晴らしかった。
ジョニー・デップが演じた無口なロマ人のジプシーとしての艶めかしい魅力はとても印象的。

正直作品の面白さとして、誰にでも進められる映画では無いが、差別や偏見を第二次世界大戦前後の悲惨な時代を通し、ユダヤ人女性の目線で見れるので、興味が有る方は是非。
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