コーカサス

しとやかな獣のコーカサスのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
4.2
鬼才・川島雄三監督と新藤兼人脚本による日本映画の傑作。

登場人物の誰ひとりにも感情移入出来ない “獣 (けだもの)たち”が繰り広げるブラックな会話の応酬、また全編がほぼ団地の一室で展開されるワンシチュエーションにおいて、宗川信夫撮影監督による多種多様な独特のキャメラワークが素晴らしい。
お囃子を用いた冒頭、ベランダからワイドに捉えた団地の室内ショットは、さながら舞台劇そのものであり、その後も効果的に使用され、観る者の聴覚と視覚を刺激する。

折しも時は東京オリンピック直前の高度経済成長に差し掛かる頃、その一方で誰もが決して裕福ではない“闇”を描き、後にポン・ジュノ監督作の『パラサイト 半地下の家族』に影響を与えた。

今もまだ彼らのような“獣”たちがいる事実や現実を思うと、高度経済成長と共に強い者だけが生き残る歪んだ資本主義の行く末をあたかも予見しているかのように思えてならない。

83 2023