よしまる

悪い種子(たね)のよしまるのレビュー・感想・評価

悪い種子(たね)(1956年製作の映画)
4.0
 以前から気になっていた古典をようやく鑑賞。これはすごい〜そして面白い〜。

 テッドバンディ同様、こちらも主人公が殺人者なのかどうかを明かすことなく話を転がしていくので観ていてハラハラさせられる。実話ベースではないことも関係しているかもしれないのだけれど、プロットは圧倒的にこちらの方が素晴らしい。

 裕福な家庭に育った少女ローダ。お行儀が良く優等生、大人顔負けの口達者で、わがままだけれど憎めない。なんたって可愛らしい子供だからね。

 さて、学校からピクニックで出かけた先でローダの同級生が川で溺れ死ぬという事件が発生。一緒に行っていたはずのローダは帰宅後、悲しみも驚いた様子もなく、お腹すいたからおやつをムシャムシャ。でもこの同級生の男の子は、テストのご褒美のメダルを獲得しており、ローダはそれをずっと欲しがっていた。
 母親には、けして考えてはならない疑惑が思い浮かんでしまう。なぜならそれは、自らの出自とも関係する出来事かもしれないのだから…

 と、いうお話。「悪い種子」とは、遺伝子のこと。サイコパスは遺伝するか否かは今もって議論の絶えないタブー的な考えで、これが66年前の映画とは到底信じがたい。80日間世界一周、王様と私、スタア誕生、裏窓、まだまだそんな娯楽の王道みたいな映画が公開されていた時に、こんなにも狂気じみた世界を表現していたことに唖然とする。

 元は小説、ブロードウェイで好評を博しており、原作発売からわずか2年での映画公開。舞台と同じキャストを揃えることで、大スターに頼ることなく演技をたっぷり楽しめる。学校の先生や被害者の親、大家さん、そしてキーマンとなる使用人の男など、ほとんど家の中だけの会話劇なのにまったく飽きることなく没入できる。

 結末は原作と異なり、最悪のバッドエンドを避けご都合主義な展開に。けれどもこれはこれである意味鬱な結末であり、だからめでたしってもんでもないだろう⁉️と思ってしまった。これが当時のハリウッドのギリギリ限界なのだと思えば納得もいく。

 最後はミュージカルを踏襲して笑顔でカーテンコール、さらにはご丁寧に和やかなポストクレジットシーンまで用意されていた。
 それに関してはまあこの際どうでも良くて、やはり事件の発端から結末へと至るまでのミステリータッチの展開、次第に狂い始める登場人物たちと、観ている者まで何かを問いただされているかのようなスリルこそがこの作品の醍醐味。

 殺人者は遺伝で生み出される、という前提での語り口はどうかとは思うけれど、そういうフィクションとして観れば実に生々しく、サスペンスとしては一級の面白さ。
 子供の出てくる映画が嫌いって人にぜひ見てもらって思う存分胸糞気分を味わってもらうも良しw