めしいらず

柳川堀割物語のめしいらずのレビュー・感想・評価

柳川堀割物語(1987年製作の映画)
3.0
高畑勲が手がけたドキュメンタリー映画であり、そのことに徹底して劇映画的色付けを一切しない点がまるでNHKの特番を観るよう(ナレーションが加賀美幸子、国井雅比古両氏であるのもその感を強める)でありもするけれど、その分だけ利便性に傾き古い知恵を簡単に捨て去る文明社会への高畑の問題意識と、そのことに危機感を覚えた柳川の一行政職員の誠実な職務姿勢への共感を明確にしていると思う。
水を介した人と人とのつながりの歴史。コミュニティの中心に、人の住む家のすぐそばに水辺がある。広大な土地に一本の川から水を引き、広大な平坦地に水を行き渡らせる為に先人が考えた様々な工夫。水量を制御する。水害を回避する。生態系の理にかなった利水治水システムは合理的な昔の人の叡智を示している。しかしそれには人の手を入れて維持管理することが不可欠の条件だ。水質を保つ為の様々な制限も煩わしい。便利になっていく世の中で人々にサボり癖がつくとたちまち水路は荒廃してしまう。市民もそれで良しとして一度は失われかけた。その時にたった一人で立ち上がった一人の行政職員の地道な活動がやがて広がり、柳川の地に受け継がれて来た伝統は守られる。煩わしい水路との付き合いを人々は選んだのだ。それと同時に共同体の人のつながりもまた蘇る。行政と市民とが一体となって取り組むことで、皆が地元への愛着を取り戻した。川を下りながら川辺で暮らす人々を映したラストシーンが美しい。
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