めしいらず

容疑者Xの献身のめしいらずのネタバレレビュー・内容・結末

容疑者Xの献身(2008年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

これまでのトリッキーな作風と、これ以降に傾いていくエモーショナル(浪花節的?)な作風とが、今作では有機的に結びつきバランスされている。苦手意識がある東野作品であるけれど、これは快作だと思った。二重底、三重底の結末の展開にまんまとしてやられる。被害者の人物像がステレオタイプなのは気にならぬでもないけれど、真犯人を守る為にあらゆる展開を見越したシナリオを描き、その通りにことを運んでいく共犯者の天才性にしっかりとした説得力がある。だからいわゆる”天才”人物を配して物語を単簡に推し進める向きに傾き類型に堕するような作品群とは次元が違う。共犯者の天才性を探偵の天才性が照らし物語の悲哀が深まっていくのが甚だ見事。そしてラストになってはたと思い至る。よく練り込まれたミステリの体を装っているけれど、これは東野圭吾版の『春琴抄」なのではないか。共犯者もまた殺人者に成り下がることで密かに愛してしまった真犯人と同じ地平に立ちたかったのではないか。その献身は春琴に対する佐助のそれと同じに見える。報いられないことが前提であったそれが報いられてしまった時、彼は大きな悲しみと同時に同じ大きさの喜びもきっと感じていた筈だ。二人は彼らの間にだけ通じる愛をどん底で見つけ合った。そう思えてならない。
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