チッコーネ

蔵の中のチッコーネのレビュー・感想・評価

蔵の中(1981年製作の映画)
4.0
本物の蔵の中で撮影されたという本作は、その薄暗さを活かした光の濃淡が見事に美しい。
また美術は完全に「和」で統一されており、艶やかな着物に色とりどりの折り鶴、日本人形、そして青いギヤマンの水挿しにさえ、文明開化の名残りが薫る。
夢の場面に登場する景色も美しすぎて、実景とはにわかに信じがたかった。

横溝正史の原作があるようなので、脚本の起承転結も骨太。
不気味なラストは、ヒッチコックの『サイコ』さえ彷彿とさせる。
線が細く、ハキハキとした物言いが却って不快感を煽る山中康仁は、役柄にピタリとはまっていた。

しかし何と言っても物見高いのは松原留美子。
物言わず、表情だけで熟女並の凄みを体現しているのは、複雑なバックグラウンドを持つ者ゆえの才と評価したい。
メジャー映画で主役を張った実績は、丸山明宏に次ぐ快挙とも言えるが、その後の活動は尻つぼみだった様子。
現在の消息は不明だが、メディアに老醜を晒していない分、本作での輝きは永遠である。
LGBTのTにとっては、マストのクラシック!