かずぽん

飾窓の女のかずぽんのレビュー・感想・評価

飾窓の女(1944年製作の映画)
4.8
監督:フリッツ・ラング(1944年・米・99分・モノクロ)
原題:The Woman in the Window

フリッツ・ラングに「はずれナシ」
本作も極上のサスペンスだと思います。
必要最低限の登場人物だけで、僅かの“スキ”も見せることなく、観客をハラハラドキドキさせる手腕。ラストまで気を抜けません。
その登場人物と言うのが、次の4人です。
・本作の主人公、大学で犯罪学を教える准教授リチャード・ウォンリー(エドワード・G・ロビンソン)
・フランク・レイラー検事(レイモンド・マッセイ)
・医師のマイケル・バークステイン(エドモンド・ブレオン)
・飾窓の女、アリス・リード(ジョーン・ベネット)
勿論、登場人物は他にもいますが、主人公の運命にとって、彼らが必要最低条件。

ウォンリーとレイラー、そしてバークステインは、職業は違えど一緒にクラブで飲んだり軽口を叩き合う仲です。この夜は、隣の店頭の飾窓にある美女の肖像画が話題にのぼっていました。「絵でしか会えない我々の理想の女だ」と・・・
レイラーとバークステインによれば、ウォンリーは堅物という鑑定でした。三人は中年男の悲哀を語り合い、検事のレイラーが検事局で見る中年男の悲劇は、「酒の飲みすぎや浮気心など、ちょっとした事がきっかけで面倒が起こるのだ」と言います。もしも、あの絵の彼女に誘われたら…などという話題も笑いの内に終わりました。
一人残ったリチャードは『ソロモンの雅歌』というタイトルの本を手に取り、クラブの接客係のチャーリー(アーサー・ロフト)に10時半になったら声を掛けてくれるように頼みます。

ウォンリーがまた例の肖像画に見惚れていると、絵のモデルのアリス・リード本人が現れ、彼女に誘われるままアリスのアパートまでついて行ってしまいます。ここから物語が急展開。
フランク・ハワードという男もアリスを訪ねて来て、ウォンリーと鉢合わせ。短気なハワードに首を絞められてウォンリーが殺されそうになっていると、アリスがハサミを手渡すので彼はそれでハワードの背中を刺して殺してしまいます。
一旦は警察に通報しようとしたウォンリーでしたが、死体を遠くへ捨てる計画を立て始めます。冒頭、「正当防衛と強盗殺人とは違う」という内容での講義をしていたのに、犯罪学の専門家でもある彼が何を血迷ってしまったのでしょうか。
この後の展開が本作の核心部分ですので書くのは控えますが、『刑事コロンボ』でも犯人が喋りすぎて墓穴を掘るように、ウォンリーもついつい口を滑らしてしまいます。
ここで本作における それぞれの役割分担が活きてきます。
レイラー検事は、死体遺棄現場に残された血痕やタイヤ痕、足跡などから犯人の身長や体重を割り出し、中流階級の人間であると推測します。
現場見学に誘われるままに同行したウォンリーは、不自然な言動を指摘されて緊張から気分が悪くなり、その夜クラブで会ったバークステイン医師に不眠を訴え、薬を処方してもらいます。それは強い薬なので服用を間違えないようにと注意を受けます。過剰に摂取すると心臓発作で死ぬ可能性もあると言います。
さて、必要最低限の登場人物による伏線が張り終わりました。あとは、展開を見守るだけです。

ラストは賛否両論あるそうです。私は最初は「否」の方でした。しかし、もう一度観直してみると、これも「アリ」かなと思いました。あくまでも「アリかな」程度です。当時のヘイズ・コードを考慮すると仕方のない結末だったのだと理解します。でも、どんでん返しのないまま終わらせた方が、序盤でレイラー検事が語った「悲劇のきっかけ」が活かされたように思うのですが、如何でしょうか?

主役のウォンリーを演じた彼ですが、見覚えがあると思ったら『ソイレント・グリーン』でソル・ロスを演じたエドワード・G・ロビンソンでした。若い頃から演技派だったのですね。美女との小さな冒険に内心、心を弾ませながらも後ろめたさも感じている。そんな小心者であることが見事に伝わって来ます。
かずぽん

かずぽん