かずぽん

ドクター・スリープのかずぽんのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
4.0
【シャイニング(かがやき)の持ち主は たくさん存在するようだ】

監督・脚本・編集:マイク・フラナガン(2019年・米・152分)
原作:スティーヴン・キング『Doctor Sleep』

珍しく原作小説を読んでから本作を鑑賞。上下巻合わせて950頁超の長編だったが、原作者のスティーヴン・キングが、キューブリック監督の映画『シャイニング』をお気に召さなかった理由が分った。
キングにとっては、主役はあくまでも“シャイニング”という特殊な“力”の方だったのだろう。そのシャイニングを軽視したキューブリック版に立腹したのだ。(キング自らが監督してTVドラマを作ったほど)
それでもまだ気が済まなかったのか、キングは『ドクター・スリープ』の“あとがき”でも キューブリックへの恨みつらみを書いているのには閉口した。
それで本作はというと、キューブリック版の続編として描かれている。つまり、あのラストから40年後という設定で、今回の主役は、ジャック(ジャック・ニコルソン)の息子のダン(ダニー・トランス/ユアン・マクレガー)が主役だ。ただし、本作ではキューブリック版のその後という形を取りながら、“シャイニング”の力を武器に、トゥルー・ノットという忌まわしいバケモノ集団と戦い、、かつてのオーバールックホテルに居座る亡霊たちとも再び対峙することになる。

オーバールックホテルでの惨劇から40年。母のウェンディは、既に亡くなっている。成人したダンは父と同じようにアルコール依存症になり自堕落な生活を送っていた。しかし、ある出来事があって、流れ着いたニューハンプシャーのフレジャーという町でホスピスの仕事に就き、アルコール依存症患者の支援団体に参加して断酒を決意した。
ダンがホスピスで「ドクター・スリープ」と呼ばれているのは、死の淵にいる患者の「死への恐怖」を取り除いてやることが出来るからだ。「怖いことなんてないさ。眠りに就くのと同じだよ。」という具合に。
ダンの部屋の壁には大きな黒板があって、ある日、そこにアブラ・ストーン(カイリ―・カラン)という少女からのメッセージが送られて来た。アブラも“シャイニング”の持ち主だったが、その力はダンのものとは比べようもなく大きなものだった。ダンとアブラは遠く離れていたけれど、その力で会話することが出来た。
ある日、アブラから本作の核となる事件の強烈なメッセージが送られてきた。それは、ブラッドリー・トレバーという野球少年が誘拐され、惨殺されるところを見てしまったというのだ。(遠く離れた場所に居るのに)
少年を殺したのは「トゥルー・ノット」という幽霊のような中身が空っぽの集団で、“シャイニング”を持った子どもを殺しては、彼らの体から出る「生気」を吸って生き永らえて来たのだ。中には何百年も生きている者もいた。
トゥルー・ノットを率いるローズ・ザ・ハット(レベッカ・ファーガソン)もアブラに負けず劣らずの超能力の持ち主で、やがて、アブラのシャイニングも狙われることになる。
本作は、このトゥルー・ノットの集団に、アブラとダンが協力して立ち向かっていくという物語。

トゥルー・ノットのメンバーが人間の寿命を遥かに超えて生き続けて来られたのは、シャイニングの持ち主が他にも沢山いたからだろう。
この集団のそれぞれが特殊な能力の持ち主だった。ローズ・ザ・ハットは「透視」や「テレパシー」などの力を持っていて、相手の内部(心)に入り込んで操ることも可能だった。
彼らを喩えるなら「ジョジョ」たちの持つ“スタンド”に似ていると思う。相手を一瞬にして眠らせたり、目標の人物が何処にいるのかを探し当てるレーダーの持ち主もいた。
物語の終盤で、ローズ・ザ・ハットとの最終決戦の場となるのは、かつての「オーバールックホテル」だった。
幼いダンが三輪車を乗り回していた回廊や、血が溢れ出てくるエレベーター、双子の少女、237号室のマッセイ夫人、死んだ父ジャックの亡霊までもが登場する。このジャックを演じたのは、ヘンリー・トーマスだが頭髪の具合などそっくりに演じていた。
ただ残念なのは、ラストが大きく変わっていたことだ。原作はハッピー・エンドでそれなりの爽快感があったけれど、本作ではアブラに関係した人物たちに死者が数人出てしまった。善意の協力者だったのに!

キューブリック版が気に入らなかった原作者のキング。本作には不満を漏らさなかったのだろうか。
キューブリック版へのオマージュを感じる懐かしいシーンが沢山挿入されていたけれど、“シャイニング”の力を核に据えたことで逆鱗に触れずに済んだのだろうか。
本作を観て面白かったと感じた方には、是非とも前作の『シャイニング』もおススメしたい。本作の数倍は面白いと思うので。
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