emily

かぞくのくにのemilyのレビュー・感想・評価

かぞくのくに(2012年製作の映画)
3.6
1970年代に帰国事業により北朝鮮へと渡った兄が、25年ぶりに日本にかえってきた。病気の治療のため、監視役同行の元、3か月だけ帰国が認められた。久しぶりに両親や妹友達に会う。しかし月日の流れと国による文化の違いは、家族との会話にも不穏な空気を流させる。検査の結果は思わしくなく、3か月では治療に専念できないとのこと。延長を試みているところ、突如明日帰還するようにと言われる。

ヤン・ヨンヒ監督が自身の体験を基に描いたということで、文化の違いと時間の流れによる感覚の違いを絶妙な役者の表情や、物に対する捉え方の違いなどで描く。自由に日本で暮らしている妹と、全く自由を許されず25年間も日本に帰国することも許されなかった兄との距離感、感覚の違いがしっかり描かれつつ、兄弟ながらの絆の強さもしっかり見える。遠くにいってしまった兄、でもなんとかしたいけど何もできないもどかしさが、言葉にもできないその葛藤が横顔から、後ろ姿から読み取れる。

ドキュメンタリータッチな描き方がさらにリアルな重みを増し、安藤サクラの葛藤の演技は見事。その何もできない無力さを体現している演技が自然で、訴えかけられる物がある。特にキーポイントとなるトランクがラストでも生きていて、残される物のやるせなさが伝わる。

「白いブランコ」を生活音で消させる中で歌う兄(井浦新)。これから二度と歌う事は出来ないであろう、風と共に消えていくそのか細い声。このシーンも非常に今作を語る上で、欠かせないシーンである。

テーマは北朝鮮でありつつ、運命に翻弄されどうしようもない現実を突き付けられたときの、家族の形の一つとして非常に核心に迫る演技である。監視役の男は中立な立場で描かれているのがさらに残酷である。当然何か行動を起こす訳ではないが、その表情が、静かに見守る表情が、また何とも言えない重圧感を残す。観終わった後観客も同じように無力感を感じ、涙が頬を伝うだろう
emily

emily