わたふぁ

ある結婚の風景のわたふぁのレビュー・感想・評価

ある結婚の風景(1974年製作の映画)
4.0
言葉だけで成り立つガラス細工のような5時間の会話劇。こんなにも恐々と、一組の夫婦のことを見守るのは今までにない感覚でした。

大恋愛ではなかったけれど互いのタイミングが合って結婚した2人。子供にも恵まれ、仕事も順調。その若さで立派な家具や調度品が並ぶ邸宅を持ちながら、穏やかな生活を送っている。しかし、“理想の夫婦”についてのインタビューを受けてから少しずつ何かが崩れ始める...。

5時間とは長尺だが、これ以下には切ることは不可能だと思えるほど重要な言葉たちで溢れていた。そして、あらゆる機微が詰まった映像の集積に感動する。
素晴らしいシナリオがあって、プロの技をもった俳優やカメラマンがいて、呼吸をするように撮られた見事な映画だと思う。心がバラバラなのは物語の中の夫婦だけで、作り手は一心同体の物作りをしている。

メインの夫婦以外に、子供や家政婦、それぞれの恋人などが存在するが、それらの姿を一切出さないベルイマンの采配には痺れた。
登場させたら一気に普通のホームドラマになってしまい、話も散漫になるが、出さないことで話のフォーカスは最後の最後まで甘くならない。
それに何より「人がいるのに、いない」という気持ち悪いニュアンスを作り出すことに成功している。

ベルイマン監督はきっと、男っていう生き物のこと、そして女っていう生き物のことをよく知っているのでしょう。
登場人物の頭の先から爪先まで、生活習慣から思考回路まで、詳細に設計した上で作られた作品だと思うが、人間の心が食品の成分表のように記されたそのノートは、きっと恐ろしくて見られないだろう。