このレビューはネタバレを含みます
「撮影することは耐え難いものを撃つこと」
各地をカメラで撮影してまわるフィリップは目で見たイメージを旅行記の原稿に昇華できずにいた。そんな中、ストでドイツ便が欠航。道中アリスとその母と一緒になることに。自信を失ったフィリップは訪れた先の恋人に慰めてすらもらえず。ひょんなことからドイツに住むアリスの祖母の家に向かう、31歳と9歳の物語。
「自分を失ったら見るもの聞くものすべて通り過ぎるのよ だから自分が存在する証拠がほしいの あなたは自分の体験を特別だと思ってるの だから写真に撮るのよ 自分が見たという証拠に」
「どう生きるかなんて教えられないわ」
恋人の言葉はこれでもかというほどに刺さる。フィリップの甘い現実を突きつけてくる。慰めてほしい、ただ話を聞いてほしい。それでもそれすらも叶わず、自信をなくし切ったフィリップはあてもなく、ただただよっていた。
見どころはなんといってもフィリップとアリスの年の差バディ。フィリップがわがままで奔放なアリスに振り回され続ける姿もフィリップの受け入れざるを得ない冴えない現実感が上手くマッチをしていたし、アリスの方がどちらかというとえらいような感じで、アムスの床屋でアリスがちゃんと通訳してくれなくてめっちゃ梳かれたマッシュみたいになってて面白い。
おばあちゃん家が見つからず、泳ぎに行くシーンでは悪口言い合って本作の名シーンのうちの一つ。
「まぬけ 役立たず」
「半人前 赤ん坊」
「ごみ箱」
「アホ女」
「大食い」
「オタンコナス わがまま女」
「ヨボヨボ鳥」
「ガミガミ女」
「父親に見えるかな」
「僕が?どうして」「どうかな 恋人に見えるか」
「聞いてみるわ」
「よせよ」
「すぐに鼻を引っ張るし イビキもかく」
「お金がなくてまともな食べ物も買えない」
悪口を言いながらもお互いにお互いが好きで、仲の良さが滲み出ていた。二人で撮った証明写真もまるで家族のような笑顔が印象的。
物語の本筋では、ようやく捜し出したおばあちゃんの家は2年前からイタリア人が住んでいて、ガソリン代がなくフィリップの実家へと向かう道中、フェリーで警察に見つかり一向ミュンヘンへ向かうという終わり方。ラストシーンでは、いい物語が書けそう、落書きね、と言い合い列車の車窓から二人で顔を出しズームアウトしていく。
お互いにとって多分お互いが必要で、おばあちゃん家に行くという一見ゴールに思えるものに向かってただよい、さすらい、まじわり、相手を通して自分を見つめていく二人の人生のモラトリアムを描くロードムービーと言える。
その他所感。アリスのALASKAのスカジャンかわいい。機内でハングマンやってて楽しそう。足で風呂の栓を抜くカットよい。マッチでトイレ(大)のにおい消しするアリスもよい。ジュークボックスの少女、アイスを食べるアリスのシーンもよい。もみあげがすごい警察官もよいし、ビンをラッパ飲みするアリスは貫禄ある。