むっしゅたいやき

老人と子供のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

老人と子供(1967年製作の映画)
4.3
チェコ・ヌーヴェルヴァーグのヤン・ニェメツの映像作品を保護し、ポランスキーの名作『テス』をプロデュースした事で著名なクロード・ベリの初長編監督作品。
アシュケナージとして生まれた彼の自叙伝的な作品ですが、祖父を演じたミシェル・シモン、少年役のアラン・コーエン、二人の表情豊かな名演の光る作品です。

舞台は第二次世界大戦末期のフランス。
パリからグルノーブル郊外の祖父宅へと疎開したユダヤ人の少年の物語です。
疎開先の田舎での祖父母、叔父、犬のキヌーとの交流をノスタルジック且つコミカルに、詩情を以て描いています。
戦時中の物語ですが戦闘や処刑と言った直接的で恐怖感を煽る描写は全くなく、ユダヤ人排斥主義を標榜するぺぺ爺ちゃんとの交流を通して"差別意識とは何か"と疑問を呈する会話劇です。

前述の通り、監督の自伝的作品の為、少年が名乗る偽名はクロード・ラングマン。ベリ監督の本名です。
大上段から"差別反対"や"意識の変革"を訴えるのでは無く、この飽くまでささやかに疑問を呈する姿勢に、監督の問題意識の高さと丁寧な態度が垣間見えます。

作品内容に就いては、最早口癖のように『状況』と繰り返す父親や、ペタンやド・ゴールへの爺ちゃんの私見の披露等、前中盤にやや冗長なシークエンスも見受けられますが、急速に交流を深める後半は見応えが有りました。
特に最初"厭な奴"であったぺぺ爺ちゃんの孤独の独白や、クロードとのブランコ、窓ガラスを割ると云ったシーンでは、まるで爺ちゃん自身が悪ガキの様で、とても微笑ましく感じられます。
本作はこの『厭な奴と感じても、付き合ってみると存外善人』と云った点を差別へのひとつの回答としている、といった意見は穿ち過ぎでしょうか。

ラストシーンの爺ちゃんの寂しそうな顔が、鑑賞後の今も記憶に残る作品でした。
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