めしいらず

醜聞(スキャンダル)のめしいらずのレビュー・感想・評価

醜聞(スキャンダル)(1950年製作の映画)
4.0
人は弱い。自分で思っているよりもずっと。すぐ目先の欲得に囚われる。己が試される度にいつも逃げ腰の不甲斐なさ。それでも正義漢の仮面は被っていたい。そうすれば薄汚れた本当の顔は隠せる筈だから。自分では判っているつもり。だから年の暮れになれば来年こそは己を律せんと決意するのだけれど、酔って足元が覚束ない決意はすぐに有耶無耶になってしまう。この弁護士は悪徳ではないが己に甘く信頼には応えず唯々弱かった。愛娘に見抜かれ指摘されても尚正せぬほどに。そんな彼であっても信頼を寄せ続けてくれた者たちに報いたい強い思いと、本当は持っていた芯の通った正義感に衝き動かされ、ギリギリにはなったが遂に薄汚い本当の顔を晒して己の弱さを脱ぎ捨てて見せるのだ。クリスマスパーティで合唱される”蛍の光”の連帯感と、堕ちゆく父を正しい側へ導こうとする娘の健気さ、そして主人公の最後の一言が感動的。人を最後まで諦めず信頼し続ける心の強さと清しさ。心の深奥に肉薄するような人間ドラマ。黒澤作品の中では割と日陰者扱いだけれど、初期の代表作と呼ばれるに相応しい名編だと個人的には思った。
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