サマセット7

ミリオンダラー・ベイビーのサマセット7のレビュー・感想・評価

ミリオンダラー・ベイビー(2004年製作の映画)
4.0
監督・主演は「許されざる者」「グラントリノ」のクリント・イーストウッド。
もう1人の主演は「ボーイズドントクライ」「P.S.アイラブユー」のヒラリー・スワンク。

[あらすじ]
長いキャリアを誇るボクシングのトレーナー、フランキー・ダン(イーストウッド)の下に、低所得層出身で普段はウェイトレスとして身銭を稼ぐ女性ボクサー、マギー(ヒラリー・スワンク)が現れ、自分のトレーナーになるように申し出る。
フランキーは即答で断るが、元ボクサーでダンのジムで雑用係をするエディ(モーガン・フリーマン)が彼女の才能を見出したこともあり、最後はマギーの熱意に絆されて、トレーナーを引き受ける。
それから、マギーの快進撃が始まるが…。

[情報]
俳優としては1950年代のデビュー以来、監督としては1971年の「恐怖のメロディ」以来、2022年現在(91歳!!!)に至るまで、長大なフィルモグラフィを有するレジェンド、クリント・イーストウッドの25番目の監督作品。

2005年のアカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞(スワンク)、助演男優賞(フリーマン)を独占した。
イーストウッドにとっては、「許されざる者」に続き二度目のアカデミー賞作品賞、監督賞受賞作である。
主人公マギーを演じるヒラリー・スワンクにとっても、今作は二度目のアカデミー賞主演女優賞受賞作にあたる。

女性ボクサーと老トレーナーの絆を描くヒューマンドラマ、という題材は、配給会社からヒットを疑問視され、イーストウッドは資金集めに苦労したらしい。
結果として、3000万ドルで製作された今作は、世界興収2億1000万ドルを超える大ヒットとなった。

終盤、極めてセンシティブな内容を含み、公開当時には大きな論争を巻き起こした作品としても知られる。

現在、批評家、一般の映画好きの双方から、高い評価を得ている作品である。

[見どころ]
シンプルな映像と抑制の利いた演技の積み重なりで表現される、フランキー、マギー、エディの絆の深まり。
二人三脚で築く、人生の栄光、そして…。
観るものに、ドスンと重いものを残す結末。

[感想]
クリント・イーストウッドの演出には、奇を衒うところがない。
ただ粛々と、必要なシーンを撮影し、抑制の利いた演技を積み重ねる。
その積み重ねが、何より観客を作中に引き込む。

それにしてもイーストウッドの「家族の崩壊」描写には、容赦のかけらもない。
マギーと家族の断絶を描くシーンの辛さといったら!!
一方のフランキーの家族との断絶もハードだ。

トレーナーとボクサー。
相手に自らの選手生命をも託す、という、血縁よりも強い絆を結んだ2人。
やがて、二人三脚でアメリカン・ドリームの彼岸にまで突き進む。

2人の絆を、第三者の立場で見守るのは、元ボクサーのエディだ。
名優モーガン・フリーマンは、相変わらずの味のある演技とナレーションを披露する。
フランキーのジムを離れず、極限に挑んだ過去を持つ彼は、いわばマギーのあり得たかもしれない未来の姿だ。
3者の関係は、トレーナーであるフランキーを巡る三角関係のようでもある。

ボクシングシーンも多く、肉体の躍動に迫力があるが、今作のクライマックスはやはり、2人の人生が暗転した後だろう。
イーストウッドの演技と演出もいよいよ冴える。
それ以上に印象的なのは、ヒラリー・スワンクの演技だ。
オスカー二冠は伊達ではない。
観客は、「やり切った者のプライド」という概念の具現化を目にすることになる。

ボクシングの反則判定が甘すぎるとか、終盤の描写が実際の取り扱いと異なるとか、大事なキーワードに誤字がある、といった指摘もあるようだ。
鵜呑みにしないよう、注意を要する。

[テーマ考]
結末について注目されがちな今作だが、主題は一貫して「トレーナーとボクサーの絆」にあるように思える。
作中のあらゆる描写は、このテーマを語るために配置されている。
マギーとフランキーの家族との断絶。
もやしっ子デンジャー。
フランキーのカトリック教会での問答。
もちろん終盤の展開も。

成功のために、相手に全てを委ねること。
相手の全てを引き受けること。
その絆は、親子関係も、恋愛関係も超えて、強固で純粋だ。

作中の謎として提示されるキーワード「モ・クシュラ」。
これは、検索(ネタバレ)せずに観るべきだろう。

やり切ることが重要なのだ。
クリント・イーストウッドのキャリアを思えば、説得力がある。

[まとめ]
クリント・イーストウッドの二度目のオスカー受賞作にして、トレーナーとボクサーの絆を描いたゼロ年代の名作。
今作にはアンソニー・マッキーとマイケル・ペーニャが出ていたりする。
MCUキャストを他作で見つけると、得をした気になる。