いろんな意味で痛い痛い!な映画。
そしてなぜか美しい映画。
プロレスラーのランディは全盛期をとうに過ぎた今も、過去の栄光のおかげで細々と食いつないでる。
スーパーの店員として働きながら週末は本業で肉体を傷つけ暴れる日々ですが、
トレーラーハウスの家賃もろくに払えず、しかも心臓に爆弾を抱えることになり、現役引退を決意します…
・・・
ボロボロになっても、稼げなくても、死ぬかもしれなくても、
誰も分かってくれなくても、
分かった上で止めようとしてくれる人がいても、
俺にはこれしかない。
選んだわけじゃない、もともと選択肢はひとつだった。
これだけが俺の生きる道で、リングが唯一の居場所。
そんなランディの生きざまに、共感も同情も出来ない、のですが!
一度は引退を決めたので、疎遠のまま放置してきた娘と復縁して一緒に暮らそうかなと。
それがうまくいきかけて泣いて抱き合ってたくせに、ドラッグパーティーで寝過ごして娘との約束を忘れるという体たらく。まったく同情の余地がない!
レスラーとしてファンに愛されてるとしても、生き方に憧れたりしないし、
カッコいいなんて思わないし、
身内にこんな人いたら困るよ。娘の気持ちは正しい。
でも…
何だろう。美しいのです。
一度は惹かれ合ったはずの女性のことや、ちゃんと向き合えば愛し合えたはずの娘のこと…を胸に抱いて、ではなく振り切って、自分を生かしてくれる、自分の居場所へ向かう男。
美学とか信念なんて言葉はふさわしくない、ただ不様に自分の道を生きるだけのみっともない男の姿に、なぜだか心動かされるのです。
ランディは少なくとも僕なんかよりは、命を燃やして生きている。
本当は羨ましいのかもしれない。
・・・
昔映画館で観ました。
ラストシーン、結末をある程度観客にゆだねながら、余韻を残してエンドロールに入ります。
ギター1本の静かなイントロと、ブルース・スプリングスティーンの歌声シブミ。
ランディのあがきをそのまま表現したかのような書き下ろしの歌詞(the Wrestler)。
いい映画を観たあとのエンドロールって、余韻に浸れる最高の時間のはずなんですが、この時の僕の頭の中は
「もうすぐ駐車料金が100円から200円になってしまう!終わったらすぐ走って行かなきゃ!」でした…
ちっちゃい。何てちっちゃいんだ…
僕は長生きするに違いない。