こたつむり

蝿の王のこたつむりのレビュー・感想・評価

蝿の王(1990年製作の映画)
3.8

★ 人間の本性を鋭く描いた問題作…のリメイク

南の島。豊富に取れる果物。
綺麗な海と温暖な気候。
環境を破壊する人間は誰一人もいない…。
飛行機が墜落し、助かった少年たちが辿り着いた場所は、そんな無人島でした。

厳しく叱る親もいません。学校もありません。
欲張らなければ生きていくことは出来ます。
あるのは無制限の“自由”。何をするのか、しないのか。全ては自分の意思次第。

はたして、これは“楽園”でしょうか。
或いは“緩やかな牢獄”なのでしょうか。
その捉え方ひとつで受け止め方が変わる物語でした。

そして、そこには正解はありません。
現実を現実と受け止めて生きていくこと。
現実の向こう側に夢を託して生きていくこと。
どちらも本人の選択次第であり、大切なのは悔いを残さないことじゃないでしょうか。

ちなみに本作はリメイク。
原典(1963年の作品)に比べて表現がマイルドになっている…と耳にしていたのですが、いやいや、どうして。十二分にエグい物語でした。確かに直接的な暴力描写は少ないのですが、想像力を刺激してくるので、次第に胸が苦しくなってきます。

特に少年たちの変貌は痛烈でした。
外観の変化(最初は立派な制服→切れてボロボロ→最低限の衣類…つまりはブリーフ)も然ることながら、内面が徐々に変容する様は「子供であっても人間の本性は獣だ」と言っているかのよう。やはり、生存が保証された世界では、人は容易く“思考停止”に陥るのでしょうか。

ちなみに本作のタイトルは『蝿の王』ですが、実際に《ベルゼブブ》が出てくるわけではありません。原作ではブタの頭を“蝿の王”に見立てたとのことですが、その辺りの説明がないので、いまいちピンとこないタイトルになってしまったと思います。変貌していく《少年》を見立てたもの…という解釈も出来ますけどね。

まあ、そんなわけで。
人間の本性を痛烈に批判した物語でした。
もしも「自分がこの中にいたら」とか「どのように対処すべきか」などと考えながら鑑賞することをオススメします。個人的には、どんな状況下でも“知性”だけは捨てたくないですね。たとえ、それが通用しない弱肉強食の世界であっても。
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